

藤井聡太「七冠」
史上2人目、7つのタイトルを同時に保持することとなった将棋の藤井聡太七冠。
息つく暇もなく、新たなタイトル戦が始まろうとしている。棋聖戦だ。
佐々木大地七段を挑戦者に迎える五番勝負、その第1局は6月5日に行われる。舞台は藤井七冠にとっては初の海外対局となるベトナムのリゾート地・ダナンだ。
将棋界にとって4年ぶりとなる海外でのタイトル戦は、なぜベトナムなのか。
実は今回の会場となる「ダナン三日月」での開催は2019年から計画されていた。だがその翌年、新型コロナウイルスのパンデミックが発生、海外対局は不可能となってしまったのだった。
ようやく実現したベトナムでのタイトル戦。
「ダナン三日月」の担当者が、開催が決まるまでの経緯、そして対局者たちを迎える直前の思いを語ってくれた。
「ダナンに来てください」が最初だった

「ダナン三日月」 手前に富士山のモニュメントが見える(提供:ダナン三日月)
「最近では海外対局が難しい時期が続いたんですけど、こういった対局を海外の方にも将棋に関心をもっていただくひとつのきっかけにできればとも思います」
5月8日に行われた王将就位式後の記者会見で、自身初の海外対局について聞かれた藤井七冠は、笑顔を見せながらこう答えた。
将棋のタイトル戦が海外で行われるのは、2019年4月の第4期叡王戦七番勝負第1局が、台湾・台北市で行われて以来のこと。
今回の会場は、「ホテル三日月グループ」初の海外進出ホテルである「ダナン三日月」だ。
「ホテル三日月グループ」は、千葉・木更津市と栃木・日光市に合わせて4つのホテル・旅館とスパ施設を展開し、今年で創業62年を迎える老舗である。
将棋のタイトル戦では、2021年の第92期棋聖戦第1局と2022年の第93期棋聖戦第3局が、木更津市の「龍宮城スパホテル三日月」で行われた。

「ダナン三日月」日本庭園の五重の塔と鐘(提供:ダナン三日月)
こうした実績を積み上げたうえで、ついに今回、ダナンでの開催に漕ぎつけたのかと思いきや、事情は少し違うようだ。
「ダナン三日月」の益子美智緒・会長室室長が、経緯について説明してくれた。
「ダナンでの対局については実は日本将棋連盟様に2019年にはお願いをしておりました。しかし、コロナ禍により海外どころか国内での移動もままならない状況となり、断念をしておりました。ですから、私達にとってはようやく実現できたという思いです」
「龍宮城スパホテル三日月」での対局は、コロナ禍でダナン開催をやむなく断念した結果なのだという。
「ダナンに来てください、が最初でした。『ダナン三日月』のオープンに合わせて、将棋の海外対局をやりたいと」
「ダナン三日月」のグランドオープンは去年6月。
結局、工期自体もコロナ禍で少し伸びてしまったのだが、本来であればもう少し早く完成させて、「ホテル三日月グループ」として最初のタイトル戦はダナンで開催、というのが当初の計画だったのだ。