御厨貴さんは政治学者であり、自民党の歴史に詳しい名誉教授です。彼は深刻な状況に絶望しながらも、「言葉によって政治を取り戻せ」と話しています。
総辞職すべき事態
今回の派閥による裏金疑惑は、1988年のリクルート事件に似た「政治とカネ」の問題です。当時は政治改革が期待され、政治資金規正法の改正や小選挙区制の導入などが行われました。しかし、今回の事件では政治改革に向けた希望や期待が感じられません。本来ならば岸田内閣は総辞職すべきですが、後継者がいないために事態は困難を極めています。野党も政権を担うには遠い存在です。このような絶望感は、近代史においても稀な状況です。
派閥はかつて政策集団でありながら、裏金を生み出す仕組みとして機能してきました。派閥は政治の議論や新人の教育、そして自民党総裁の決定など、多岐にわたる役割を果たしていました。しかし、政策の真剣な議論が行われることはほとんどありませんでした。この状況は、安倍晋三元首相の責任が大きいと言えるでしょう。後継者の育成や長期政権の間に起きたスキャンダルにもかかわらず、彼は選挙に勝つことで問題をごまかし続けました。野党やメディアからの追及にも明確な答えを示さず、結果的に国会審議は空洞化していきました。
「日本の政治が死んでしまう」
カネではなく、言葉によって政治の力を取り戻す必要があります。右肩上がりの経済成長が終わり、人口が減少する中で、日本の未来を考える必要があります。派閥から裏金を受け取っていた議員たちは、いつかは大臣ポストが回ってくると期待し、問題を抱えながらも口をつぐんでいたのかもしれません。しかし、現在の自民党のままでは誰も満足していないはずです。中堅議員たちは勇気を持って立ち上がり、野党を巻き込んで政界を再編するべきです。それほどの動きがなければ、日本の政治は死んでしまいます。(聞き手・根岸拓朗)
御厨貴さんは名誉教授であり、専門は近現代の日本政治史です。彼は政府の東日本大震災復興構想会議議長代理も務めました。