天皇皇后両陛下、硫黄島へご訪問:戦後80年の「慰霊の旅」と継承される平和への祈り

2025年4月、天皇皇后両陛下は、太平洋戦争の激戦地として知られる硫黄島を訪問されました。これは戦後80年の節目の年に行われる「慰霊の旅」の一環であり、在位中の天皇陛下のご訪問としては上皇さまに次ぐ2例目となります。特に、今回のコースは長年叶わなかった旧島民の念願を実現したものであり、深い歴史的・社会的な意味を持つ訪問となりました。本記事では、この意義深いご訪問の背景と、両陛下が継承される平和への強い思いについて詳しく掘り下げます。

硫黄島「天山慰霊碑」で献花される天皇皇后両陛下、戦没者への深い祈りを示す硫黄島「天山慰霊碑」で献花される天皇皇后両陛下、戦没者への深い祈りを示す

戦後80年「慰霊の旅」の背景

両陛下の硫黄島ご訪問の方針が報じられたのは、2025年1月22日の共同通信による特報でした。宮内庁が検討を進める中、今年は被爆地の広島と長崎、そして激しい地上戦の舞台となった沖縄へのご訪問も視野に入れられており、節目となる年に戦禍の地を巡り、平和への強い思いを改めて示すお考えが示されました。2025年は終戦から80年という大きな節目であり、報道機関や皇室ウォッチャーの間では、両陛下が上皇上皇后両陛下が戦後50年に行われた「慰霊の旅」をどのように継承されるのかに注目が集まっていました。特に、数多の戦没者が眠る硫黄島へのご訪問は、この継承の重要な一歩と位置付けられます。

今上天皇陛下の硫黄島への深い思い

1960年生まれの今上天皇陛下は、初の戦後生まれの天皇でいらっしゃいます。即位後、硫黄島について初めて公の場で言及されたのは、2023年の「お誕生日会見」でのことでした。沖縄と並び、凄惨な地上戦の舞台となり、未だ1万人を超える遺骨が眠るこの島へのお気持ちを問われた際、陛下の表情は厳かに変わり、一語一句を慎重に紡ぎ出すように述べられました。「上皇上皇后両陛下から硫黄島に行かれた時の話をいろいろと伺っております。大変悲惨な戦闘が行われ、また多くの方が亡くなられたことを、私も本当に残念に思っておりますし、このような硫黄島も含めて、日本各地で様々な形で多くの人々が亡くなられている。こういった戦争中の歴史についても、私自身、今後ともやはりいろいろと理解を深めていきたいというように思っております。」この発言は、陛下が硫黄島の歴史、そして戦争の悲劇に深く心を寄せられていることを示しています。

上皇陛下の御製と継承される平和への祈り

上皇さまは、在位中の1994年に、歴代天皇の中で初めて硫黄島に足を踏み入れられました。その際に詠まれた御製「精根を込め戦ひし人未だ地下に眠りて島は悲しき」は、多くの人々の心に深く刻まれています。当時、皇太子でいらっしゃった今上天皇陛下は、上皇ご夫妻から硫黄島ご訪問の様子を詳しく伺い、その思いを深く胸に留められました。そして、即位後初の戦後80年という節目に、戦禍の地を巡る最初の訪問先として硫黄島を選ばれたのです。今回の天皇陛下のご訪問は、在位中の天皇としては2例目となりますが、令和の陛下は、先代が刻まなかった「旧島民の念願が叶うコース」という新たな歴史を硫黄島の慰霊の歴史に記すこととなりました。

結び

天皇皇后両陛下による硫黄島ご訪問は、単なる公式行事以上の、深い意味合いを持っています。それは、過去の戦争の悲劇を風化させず、戦没者への慰霊と平和への祈りを次世代へと継承していく皇室の重要な役割を示すものです。戦後80年という節目に、両陛下がこの激戦地に足を運ばれたことは、戦争の記憶を語り継ぎ、平和な未来を築くことの重要性を私たち国民に改めて訴えかけるものです。この「慰霊の旅」が、日本社会にさらなる平和への意識と、歴史への理解を深める機会となることを願います。

参考資料

  • 北海道新聞記者・酒井聡平 著『死なないと、帰れない島』(講談社)
  • 共同通信社
  • Yahoo!ニュース
  • PRESIDENT Online