ドイツ大麻合法化後の新たな懸念:中毒患者急増と規制再導入の動き

ドイツ政府が嗜好用大麻を合法化して以来、大麻関連の中毒患者が急増していることが、地元メディア「南ドイツ新聞」の報道で明らかになりました。当初の目的であった闇市場の撲滅や青少年保護とは裏腹に、新たな社会的な課題が浮上しています。

ドイツ・ベルリンの大麻博物館で、職員が嗜好用大麻の植物を栽培ケース内で示す様子。合法化後の影響に関する議論が活発化。ドイツ・ベルリンの大麻博物館で、職員が嗜好用大麻の植物を栽培ケース内で示す様子。合法化後の影響に関する議論が活発化。

合法化後の大麻中毒者急増の実態

報道によると、ドイツの保険会社KKHのデータでは、2023年に急性中毒、禁断症状、精神疾患など大麻関連の症状で治療を受けた患者数は25万500人に上り、前年比で14.5%増加しました。これは人口1万人あたり30人という高い割合を示しています。特に年齢層別では、25歳から29歳が人口1万人あたり95人と最も多く、次いで45歳から49歳が45人でした。KKHは、過去10年間で診断件数が最も多く、年間増加幅も近年で大きく跳ね上がったと指摘しています。

さらに、ドイツ中毒撲滅本部(DHS)は、大麻中毒で入院した患者数が2000年と比較して7倍に増加しており、現在ではアルコールに次いで2番目に多い中毒患者を生み出す物質となっていると警鐘を鳴らしています。これらのデータは、嗜好用大麻の合法化が社会に与える影響の深刻さを示唆しています。

合法化の背景と予期せぬ影響

ドイツ政府は昨年4月、大麻の広範な使用実態を考慮し、闇市場を撲滅し青少年を保護する目的で嗜好用大麻を合法化しました。しかし、今年5月に発足した新政権は、当初の目的とは異なる現実を前に、規制の再導入を検討する動きを見せています。

保健省は、医療用大麻のオンライン処方を禁止する方針を進めています。これは、大麻の販売自体は禁止しつつ、個人または共同での栽培のみを許可したことで、医師の処方箋を通じて医療用大麻を入手しようとする需要が大幅に増加したためです。連邦医薬品・医療機器研究所のデータによると、今年1月から3月期における医療用大麻の輸入量は37トンに達し、これは前年同時期と比較して3倍以上の増加となります。この急激な需要増が、オンライン処方への規制検討につながっています。

規制再導入と闇市場拡大のリスク

医療用大麻のオンライン処方制限は、一部で懸念も引き起こしています。こうした規制が、かえって闇市場の拡大を招く可能性があるという指摘です。合法的な入手経路が制限されることで、医療目的であっても非合法なルートに頼らざるを得なくなる利用者が増えるかもしれません。嗜好用大麻の合法化がもたらした複雑な社会現象は、ドイツ政府に新たな政策決定を迫っています。

参考資料

  • 南ドイツ新聞 (Süddeutsche Zeitung)
  • 保険会社 KKH 資料
  • ドイツ中毒撲滅本部(DHS)
  • 連邦医薬品・医療機器研究所