上村洸貴氏が描く日本の教育改革:ベトナム経験と生成AI活用で挑む未来

長崎県立長崎北高等学校の英語科教員、上村洸貴氏は、生成AIを積極的に活用した個別最適な学びを推進し、日本の教育界に新たな風を吹き込んでいます。大学卒業後に富士通での社会経験を積み、教員の道へ転身した異色のキャリアを持つ上村氏は、2025年9月からはハーバード教育大学院への留学を予定しており、生成AIの教育への応用とその普及戦略に関する研究に取り組む計画です。本記事では、彼が教員の道を志した背景にあるベトナムでの経験と、日本の教育改革への熱い思いに迫ります。

富士通でのキャリアと社会経験の重要性

上村氏は教育学部を卒業後、すぐに教壇に立つのではなく、まずは社会で働く経験を積むことを選択しました。父親も教師であったことから、生徒たちに実社会での経験に基づいたより深い学びを提供したいとの思いがあったと言います。将来の基盤インフラとなるIT分野の知見を広げるため、苦手意識のあったIT業界のトップ企業である富士通に入社。約4年間、プリセールス(技術営業)として顧客の課題解決をIT製品・サービスで支援する業務に従事しました。この社会経験は、後の教員生活において、生徒への指導に説得力を持たせる上で貴重な基盤となりました。

ベトナム駐在で直面した「日本の教育」の課題

富士通在籍中、上村氏は自ら志願して約7カ月間、ベトナムでの市場調査に携わりました。将来的に英語でビジネスを行う経験が生徒指導に役立つと考えたためです。しかし、ベトナムの地で彼が目の当たりにしたのは、韓国や中国企業が市場で大きな存在感を示す一方で、日本企業の国際競争力の相対的な低下でした。さらに、当時のTOEICスコアが940点と高得点であったにもかかわらず、現地のビジネスシーンでは英語での流暢な会話についていけないという厳しい現実に直面します。この挫折感は、彼自身の英語力とIT専門性の不足を痛感させると同時に、「日本の学校教育が社会に出た途端に通用しない」という疑問を抱かせました。

この経験から、彼は日本の教育問題に根本的な原因があるのではないかと考えるようになりました。ベトナム駐在の最終日には、現地の教育訓練省を訪問し、ベトナムと日本の英語教育、特に学生のスピーキング力の違いについて意見を交換。ベトナムの学生が「国を良くしたい」という明確な目的意識を持ち、英語を「ビジネスツール」や「武器」として捉えているのに対し、日本の学生が「入試のため」に英語を学ぶ傾向にあることに気づかされます。この洞察が、上村氏が教職の道に進む決定的なきっかけとなりました。彼は、日本の学生にも目的意識を持った英語学習を促すことが、国際社会で通用する人材を育む鍵であると確信したのです。

上村洸貴氏:日本の教育改革に向けて生成AI活用とハーバード留学を語る上村洸貴氏:日本の教育改革に向けて生成AI活用とハーバード留学を語る

生成AIが拓く「個別最適な学び」と教育の未来

教員となって10年目を迎える現在、上村氏は長崎北高等学校で生成AIを積極的に英語の授業に取り入れ、「個別最適な学び」の実現に取り組んでいます。生徒一人ひとりの学習進度や理解度に応じたきめ細やかなサポートを提供することで、従来の画一的な教育からの脱却を目指しています。

彼の挑戦はこれに留まりません。2025年9月からは、教育分野における世界最高峰の学府であるハーバード教育大学院へ留学し、生成AIの教育現場へのより効果的な活用方法とその普及戦略について研究を深める予定です。この留学は、彼がベトナムで抱いた「日本の教育を変えなければならない」という強い使命感に基づいています。

上村氏のキャリアパスは、実社会での経験が教育現場に新たな視点をもたらす可能性を示しています。彼の生成AIを活用した教育への取り組みと、ハーバードでの研究は、今後の日本の教育改革を牽引する重要な一歩となるでしょう。社会で通用する英語力と目的意識を持った人材を育てるという彼のビジョンは、日本の未来を左右する国際競争力強化にも繋がる期待が寄せられています。

参考文献