2024年10月31日に公開された映画『盤上の向日葵』は、柚月裕子氏の同名小説を原作とするヒューマン・ミステリーです。将棋界で巻き起こる事件を背景に、登場人物たちの深い心情が描かれており、坂口健太郎氏演じる「桂介」と渡辺謙氏演じる「東明」を中心に、将棋に生きる男たちの激動の人生をドラマチックに描き出します。この物語は、登場人物たちの過去と捜査の足跡をたどる過程で全国各地の舞台地を巡るロードムービー的な側面も持ち、観る者を旅に誘うような感覚をもたらします。
映画『盤上の向日葵』が描く人間ドラマと舞台
本作の魅力は、単なるミステリーにとどまらず、登場人物一人ひとりの内面を深く掘り下げた人間ドラマにあります。将棋という日本の伝統文化を軸に、それぞれの人生が複雑に絡み合い、観客は彼らの感情の機微に引き込まれるでしょう。物語の進行とともに明かされる過去の真実や、登場人物たちが直面する葛藤は、多くの示唆を与えます。映画の背景として登場する様々な場所は、それぞれの心情を色彩豊かに表現し、作品に深みを与えています。
「東洋のスイス」長野・諏訪地域が選ばれる理由
この多層的な物語の舞台地の中心となったのが、長野県の「諏訪地域」です。美しい自然と精密機械工業が盛んなことから「東洋のスイス」とも称されるこの地は、これまでにも数々の名作映画やアニメの舞台となってきました。その魅力は、四季折々の壮大な景観だけでなく、歴史的な背景や文化的な豊かさにもあります。山梨県から長野県へと入るJR中央本線や中央自動車道が通り、古くから人々の往来があったこの地域は、日本の東西を結ぶ交通の要衝としても栄えてきました。
「東洋のスイス」と称される長野県諏訪地域の美しい自然と精密機械工業の風景
諏訪地域に息づく歴史と数々のロケ地
諏訪地域は、歴史的な街道が交差する要衝としても知られています。江戸時代には五街道と呼ばれた中山道と甲州道中が江戸を出て二つのルートをたどり、再び出会う交通の要衝が下諏訪宿(下諏訪町)でした。かつての甲州道中は、諏訪地域を縦断する形でつながっており、その歴史の深さが街並みや文化に色濃く残っています。
さらに、茅野市から蓼科方面へ向かう標高1500mに位置する「御射鹿池(みしゃかいけ)」も重要なロケ地の一つです。この池は、日本画家・東山魁夷の絵画『緑響く』のモチーフとなったことでも有名で、その神秘的で美しい景観は多くの人々を魅了しています。映画『盤上の向日葵』でも、土屋太鳳氏が主演した映画『orange-オレンジ-』(2015年)と同様に、物語の重要なシーンで登場し、その印象的な風景が作品に深みを与えています。
映画と歴史が織りなす諏訪の魅力
映画『盤上の向日葵』を通して、長野県の諏訪地域が持つ多様な魅力が再認識されます。将棋という静的な世界と、広大な自然や歴史ある街道という動的な舞台が融合し、作品に独特の奥行きを与えています。映画を観た後、諏訪地域の豊かな自然や歴史的なロケ地を実際に訪れることで、物語の世界観をより深く体感し、新たな発見と感動を得られることでしょう。諏訪地域は、映画ファンや歴史愛好家、自然を求める人々にとって、まさに「聖地巡礼」にふさわしい場所と言えます。




