日本が再生可能エネルギーへの転換を進める中、大規模太陽光発電所、いわゆるメガソーラーの開発が、各地で深刻な環境破壊と地域社会の軋轢を引き起こしています。特に、世界的に重要な湿地である北海道釧路湿原では、特別天然記念物のタンチョウの生息地が脅かされ、建設現場からは下水のような悪臭が報告される事態に。また、千葉県鴨川市では、広大な山林が伐採され、大規模な土砂災害のリスクが高まるなど、開発の影で看過できない問題が浮上しています。これらの事例は、日本のエネルギー政策における規制の盲点と、持続可能な開発のあり方について再考を迫っています。
釧路湿原で建設中のメガソーラー発電所、6600枚の太陽光パネルが設置される予定の現場からは下水のような悪臭が漂う
特別天然記念物タンチョウの生息地を脅かす釧路湿原のメガソーラー問題
ラムサール条約登録地として国際的に重要な湿地である釧路湿原(北海道釧路市)で、メガソーラー建設を巡る深刻なトラブルが発生しています。市街化調整区域内の、タンチョウや絶滅危惧種のキタサンショウウオが生息するこの地で、約4万2000㎡の敷地に6600枚もの太陽光パネルを敷き詰める計画が進行中でした。しかし、現場では連日ダンプカーが土砂を投入し、湿原が埋め立てられており、埋め立てられた土からはプラスチック破片や電線の切れ端といったゴミが目視され、時折、下水のような悪臭が漂っています。
釧路市では、発電容量10KWを超える太陽光発電施設が600件以上存在し、計画中のものだけでも東京ドーム21個分以上の敷地面積に及ぶとされます。環境破壊への懸念から、市は2年前から設置基準を厳しくする施策を導入しましたが、一部事業者は私有地の財産権を主張し、多数の新規計画を強行しようとしています。特に、この事業者は釧路市内で17箇所(後に2箇所廃止)のメガソーラー計画を届け出ていますが、そのうち16箇所が10月から施行された市の太陽光規制条例で希少種の生物が生息する可能性が高いとされる「特別保全区域」での計画です。
猛禽類医学研究所の齊藤慶輔代表は、「希少種への影響を避けるためには、事業者による綿密な事前調査が不可欠です。しかし、この事業者はタンチョウの現地調査を怠り、専門家へのヒアリングも不十分でした。オジロワシの調査も繁殖期の2月中旬から9月下旬まで行うべきところ、実施されたのは10月のわずか3日間のみです」と、その不十分な環境アセスメントに強い憤りを示しています。
千葉県鴨川市における大規模開発:土砂災害リスクと住民の不安
メガソーラー開発が危機に瀕させているのは、野生生物や自然だけではありません。人間の生活基盤もまた、同様に脅かされています。千葉県鴨川市では、250万㎡(東京ドーム53個分)という広大な敷地に47万枚もの太陽光パネルを並べる大規模な計画が進められています。今年5月に着工したこの工事では、37万本もの木を伐採する計画で、麓の集落住民は大規模な災害発生を強く懸念しています。
工事に反対する市民団体の勝又國江さんは、「太陽光パネルを敷き詰める平坦な場所を作るため、高低差200mの山が丸裸にされ、尾根が削られてその土砂で沢が盛り上げられる計画です。6年前に許可されたこの計画は、現在の防災基準を強化した新しい県の審査基準に沿っておらず、安全性が保障されていません。近年ゲリラ豪雨などの災害が増加する中で、このような大規模な盛土工事を強行すれば、山が崩壊し河川の洪水を引き起こす危険性があります」と、住民の不安を代弁します。
千葉県は事業者に対し58項目にわたる行政指導を行い、より安全性の高い計画への見直しを求めていますが、事業者がどこまで対応するかは不透明なままです。
日本の再生可能エネルギー政策の課題と今後の展望
全国で頻発するメガソーラーを巡るトラブルを防ぐには、どのような対策が必要なのでしょうか。再生可能エネルギー政策に詳しい一橋大学の山下英俊准教授は、「国が固定価格買い取り制度(FIT制度:再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で買い取ることを国が約束する制度)を開始した際、立地のコントロールができるような規制を設けなかったことが、現在のメガソーラー問題に繋がっています」と指摘します。
山下准教授は、トラブルを防止するための具体的な方策として、国による規制強化に加え、地域ごとの条例制定や設置地区の区分け、そして事業者に対する厳格な調査の実施を提言しています。
政府もこの問題の深刻さを認識しており、関係省庁連絡会議を設置し、地域との共生や規律強化について検討を進める方針を示しています。持続可能な社会の実現には再生可能エネルギーの導入が不可欠ですが、その開発が自然環境や地域社会に与える負の影響を最小限に抑え、真の意味での「共生」を実現することが、今、日本のエネルギー政策に強く求められています。
参考文献
- FRIDAYデジタル: 「埋め立てた土からは下水のような臭いが……特別天然記念物・タンチョウの生息地で進む「メガソーラー工事」現地写真」 (2025年11月7日号掲載)




