多くの人が「老後も住み慣れた自宅で安心」と考えがちですが、介護の専門家である吉田肇氏はこれに警鐘を鳴らします。実は、自宅こそが高齢者にとって最も油断しやすい危険地帯になり得ると指摘されているのです。本記事では、安全な老後を送るために今から考えるべき「住まいの3つの選択肢」を解説します。
「住み慣れた家」に潜む、高齢者の命に関わるリスク
65歳以上の高齢者がいる世帯の8割以上が持ち家に住む一方、その半数はバリアフリーに対応していません。 高齢者の転倒事故の約6割は自宅で発生し、救急搬送の約8割が転倒によるもので、うち約4割が入院を要する重症です。 令和5年の統計では、家庭内事故での死者数が交通事故死者数の約4.5倍(1万6050人に対し3573人)に上り、自宅が危険な場所である実態が浮き彫りになっています。
断熱性能の低い住宅も多く、「トイレや浴室が寒い」と約7割が回答。 急激な温度変化によるヒートショックは高齢者に多く見られる自宅での事故です。 逆に、家の中の平均気温が2度上昇するだけで、要介護となる年齢が3歳程度延びるという研究結果もあります。
国土交通省は2019年3月、高齢期の健康維持に向けた住まい改修ガイドラインを発表しました。 これには既存住宅改修の配慮項目として以下の8つが含まれます。
- 温熱環境
- 外出のしやすさ
- トイレ・浴室の利用しやすさ
- 日常生活空間の合理化
- 主要動線上のバリアフリー
- 設備の導入・更新
- 光・音・匂い・湿度など
- 余剰空間の活用
特に(1)〜(4)は重要とされ、冬暖かく夏涼しく、外出や来客がしやすく、コンパクトな住宅への改修が望ましいとされています。
高齢者が自宅で転倒するリスクを示すイメージ写真
老後の住まい、早めの選択が不可欠な理由
高齢期に向けた暮らし方には3つのパターンがあります。
- 介護が必要になるまで自宅に住み続ける: 介護が始まった時点で、リフォームや施設入居の必要性を検討する。
- 人生の最期まで自宅でと定め、早めにリフォームする: 介護が必要になっても自宅で過ごせるよう、車いす対応などを想定して改修しておく。
- 早めに住み替える: 介護が必要になる前に、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や自立型老人ホーム、子世帯の近くへ転居する。
「成り行き任せ」の選択肢(1)は、最終的に本人の意思ではなく家族の判断に委ねられがちです。 自宅での生活が困難になるのは、介助が必要になった際の備えがない場合や、家族が在宅介護の限界を感じた時です。 親子が将来の住まいについて話し合う機会を避け、「自分は大丈夫」と楽観視したり、「余計なお世話だ」と拒絶したりするケースは少なくありません。 しかし、この対話を先送りにすると、介護度が上がってから「自宅で暮らしたい」と願っても、それが困難になり、選択肢が失われる可能性があります。 早期からの話し合いと計画こそが、納得のいく老後を送るための鍵となります。





