近年、東京大学の学生たちの間で、就職先としてコンサルティングファームの人気が急速に高まっています。かつては中央官庁が最たる選択肢とされていましたが、時代と共にキャリアへの価値観も変化しているようです。しかし、一見華やかに見えるコンサルの世界と、堅実な官僚の仕事には、意外な共通点や、それぞれ異なる「地獄」が存在すると言います。今回は、キャリア官僚からコンサルを経てお笑い芸人へと転身した異色の経歴を持つ元官僚芸人まつもと氏に、両者の実態とキャリア選択の深層について聞きました。
「官僚芸人」まつもと氏の異色の経歴
まつもと氏（47）は、総務省などのキャリア官僚として経験を積んだ後、42歳で全く異なるお笑い芸人の道へ進んだ稀有な存在です。芸人だけでは生計を立てられない現実も明かし、現在はフリーランス的なコンサルタント、いわゆる「野良コンサル」との「二足のわらじ」で活動しています。芸人になる以前は、ドリームインキュベータ、経営共創基盤、ボストン・コンサルティング・グループといった大手コンサルティング会社での職務にも携わっていました。
官僚とコンサルの共通点：見えない「泥沼」
まつもと氏は、官僚の仕事について「対峙する仕事が大きすぎて、自分が何かを変えられる感覚が乏しく、無力感を持つことも多かった」と語ります。一方、コンサルタントは「その企業が困っていることを少人数で変えにいく」仕事であり、手応えを感じやすかったと言います。国家全体を俯瞰する官僚の広い視野と、業界全体を見て課題を見出すコンサルのアプローチには、確かに共通点があるように見えます。しかし、彼が最も共通点だと感じたのは、驚くべきことに、その「働き方」にあると笑います。
キャリア官僚を経てお笑い芸人へ転身した異色の経歴を持つ、元官僚芸人まつもと氏
「何日も家に帰らず寝ないで働けるとか、パワハラ的な状況で圧力をかけられまくってもタフに働けるとか。精神的、肉体的なタフさが求められる点で、両者はとても似ている」とまつもと氏は指摘します。これは、どちらの職業も、想像以上に過酷な労働環境が常態化していることを示唆しています。
コンサル業界の「甘い誘惑と地獄の現実」
官僚の仕事が「退屈な長時間労働でタイパ（タイムパフォーマンス）もコスパ（コストパフォーマンス）も悪い」と今の学生に避けられがちな一方で、コンサルティングは若い社員に「付加価値を出すことを追求させてくれる」と魅力的に映るかもしれません。しかし、まつもと氏は、コンサルの仕事の本質は「若くて優秀な奴を、アメとムチで死ぬほど働かせることにある」と手厳しく語ります。高い給料と魅力的なブランドで若い才能を引き寄せ、強烈なプレッシャーをかけて働かせるのが実情だというのです。
彼自身も「昔は夢の中でも仕事をしていました」と振り返り、「土日は休日ではなく、『上からのプレッシャーがないので溜まった仕事を落ち着いてやれる日』という感覚だった」と語ります。新規事業立ち上げ案件が迷走し、「炎上プロジェクト」となって連日徹夜が続くようなこともあったといい、まさに「地獄」を経験したと言います。
「どちらの地獄を選ぶか」：キャリア選択の本質
コンサル人気の裏には、このような業界の厳しい現実が横たわっています。大手ファームで経験を積んだ後、独立して「自由な」コンサル業を続ける例も増えていますが、彼らは辞めた社員の穴埋めなどに「便利屋さん」として使われることも少なくないそうです。まつもと氏は、定年まで官庁や大企業で働く生き方を「組織の傘に守ってもらえる半面、組織の奴隷という地獄がある」と表現します。
一方で、コンサル的なスキルを活かし、自分の力で働く生き方は学生には魅力的に映るかもしれません。しかし、それもまた「別の地獄がある」と彼は断言します。結局のところ、「どっちの地獄があなたは好き？」という問いに帰着するのだと。コンサルブームもいつか終わるかもしれない。だからこそ、コンサルという生き方が本当に自分に合っているのか、深く考える必要があると警鐘を鳴らします。キャリアを選ぶ際は、表面的なイメージだけでなく、その中に潜む現実をしっかりと見極める洞察力が求められます。
参考文献:
- AERA編集部・小長光哲郎. 「東大生の就職先としてコンサルが人気」. AERA, 2025年11月17日号.
- Yahoo!ニュース. 「東大生の就職先としてコンサルが人気──。かつて東大生の就職先としては中央官庁というイメージが強かったが、新たな就職先としてコンサルティング会社が急拡大している」. https://news.yahoo.co.jp/articles/a69d8595094f8dd83a050faf5fb70f02bf3deab6
