自民党と連立を組む日本維新の会は、年間の医療費を4兆円削減することで現役世代の負担を年間6万円減らすという目標を掲げているが、そこには大きな壁が立ちはだかっている。関連の政治団体が多額の献金を自民党にしている日本医師会(日医)の存在だ。
診療所を経営する開業医の利益団体である日医は、自らの既得権を守るため、これまで「票とカネ」を武器に自民党に大きな影響力を及ぼしてきた。その実態を克明に描いた 『日本医師会の正体 なぜ医療費のムダは減らないのか』 (文藝春秋)から、開業医が高い利益を得ていることを明らかにした調査結果について記した部分を抜粋して紹介する。
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診療所の内部留保は1億2400万円
「『お前たちは休日返上で働いて、その分、儲けたからいいじゃないか』と、そういったことを言わんばかりの資料が掲載されたことは極めて残念です」
2023年11月2日、東京・本駒込の日本医師会館。前日に行われた財政制度分科会の社会保障をテーマにした議論を受け、日医会長の松本吉郎は急遽、記者会見を開き、財務省が医師らを“お前呼ばわり”したかのようなけんか腰な物言いで、怒りをぶちまけた。松本が目のにした資料は、財務省が財政審に提出した「機動的調査」のデータだった。
診療報酬改定を検討する際の基礎資料としては、厚労省が2年に1度、医療機関の経営に関する「医療経済実態調査」を実施してきたが、調査のたびに対象の医療機関が入れ替わるため、経年的なデータが把握できず、サンプル数も非常に少ないという欠陥が以前から指摘されていた。抜本的な見直しが求められていたが、一向に改善されないため、今回は財務省が独自に医療機関の経営実態の把握に乗り出した。
財務省が各地の地方財務局を動員して集計したのは、都道府県や一部の政令指定都市が公表している医療法人の事業報告書などのデータ。入手が難しかった自治体を除き、38都道府県から2万1939の医療法人の直近3年間(20〜22年度)の報告書を入手して経営状況を分析した。その結果、1万8207の無床診療所の平均値で、22年度の収益は1億8800万円と20年度から12%、2000万円増加したことが分かった。診療所の経常利益率(売上高に対する経常利益の割合)は20年度3.0%、21年度7.4%、22年度8.8%と急伸していた。
診療所の利益は、本業の医療サービスで得られる医業利益と、受取利息や受取配当金、補助金などの医業外利益からなる。この医業利益と医業外利益の合計を売り上げで割ったものが診療所の経常利益率となる。同じ3カ年度の中小企業の平均経常利益率は2.6%〜3.4%で、診療所が大きく上回った。医師の高齢化やコロナ禍などで、業務をかなり縮小した診療所を除けば、経常利益率はさらに高くなるとみられた。
経営が好調な診療所に対し、1750の病院の同じ3カ年度の経常利益率は2.8%、5.8%、5.0%と、すべての年度で診療所を下回った。厚労省による過去の医療経済実態調査でも、診療所の収益率は病院より高い傾向にあったが、今回の財務省の調査でそのことが裏付けられた。その結果、診療所の利益剰余金(内部留保)は22年度が平均1億2400万円で、20年度からわずか2年間で18%、1900万円も増えていた。






