北海道積丹町で発生した町議会副議長・海田一時氏と猟友会との間の「パワハラ騒動」は、野生のヒグマ出没という喫緊の課題と絡み合い、町全体を巻き込む事態へと発展しました。副議長が議会の場で陳謝したことでようやく“雪解け”の兆しが見え始めたものの、その内容や誠意に対して世間からは依然として懐疑的な声が上がっており、問題の根深さを示しています。この騒動は、地元住民の安全確保と、地域社会における意思決定のあり方に大きな問いを投げかけています。
「僕は悪くない」副議長の一言が事態を招く
事態の発端は、2025年9月27日、海田副議長の自宅近くに設置された箱罠で体重284キロの巨大なヒグマが捕獲された際の出来事に遡ります。現場に駆けつけた猟友会のハンターが海田氏と面識がなく身元を尋ねたところ、副議長は「誰にものを言っているか」と憤慨。さらに、駆除後の運び出し作業に備えて10名ほどのハンターが集まっている状況に対し、「こんなに人数が必要なのか。金もらえるからだろ。俺にそんなことするなら駆除もさせないようにするし、議会で予算も減らすからな。辞めさせてやる」と発言したと報じられています。この一方的かつ威圧的な言動に対し、猟友会は激怒。町からの出動要請に対し、「謝罪がない限り出動しない」と通達し、その結果、積丹町はヒグマ対策の重要な担い手を失う異常事態に陥りました。
このハンターの出動拒否という事態は1か月以上にわたり継続し、その間も町内ではクマの出没が相次ぎました。特に小学校近くでの目撃情報があった際には、周辺の学校が休校措置を講じるなど、住民の生活に大きな影響を及ぼしました。事態の深刻化にもかかわらず、10月30日に地元メディアの取材に応じた海田副議長は、謝罪の意向を問われると「しない」と断言し、「僕は悪くない」とコメント。この姿勢に対し、「町民の命より自分のプライドが大事なのか」「これで町民に被害が出たらお前のせいだぞ」「あんたの代わりはいくらでもいるがハンターの代わりはいない」といった批判や苦情が世間から殺到しました。
積丹町における野生ヒグマの目撃情報と警戒態勢の様子
クマ出没と町民の不安、そして爆破予告
副議長の発言をきっかけとした騒動は、積丹町全体に深い影を落としました。猟友会が出動を拒否する中で、クマの目撃情報は後を絶たず、町民の間に不安が募るばかりでした。特に、子どもたちの通学路での出没は保護者や学校関係者に深刻な懸念を抱かせ、学校の休校措置といった異例の対応を余儀なくされました。住民からは、安全な生活が脅かされていることへの切実な声が数多く寄せられ、行政の対応に対する不信感も高まりました。
混乱はさらにエスカレートし、11月1日には積丹町の役場に「爆破予告」まで届く事態となりました。この予告の直接的な理由は不明であるものの、多くの町民はこの予告が副議長を巡るヒグマ騒動に関連しているのではないかと疑念を抱きました。この影響で、同日から3日まで開催予定だった「積丹町文化祭」が急きょ中止となり、地域住民の楽しみや交流の機会が失われることになりました。このような事態は、一連の騒動が単なる個人的な口論の範疇を超え、地域社会全体の機能と平穏を揺るがす重大な問題へと発展していたことを示しています。
ヒグマの出没により警戒を呼びかける積丹町の広報
議会での“陳謝”と世間の懐疑的な声
多岐にわたる混乱が続く中、事態は11月7日に動きを見せました。積丹町議会において、海田副議長がついに“陳謝”を行ったと報じられました。地元メディアの情報によれば、海田氏は町議会の産業建設常任委員会で、「私の不用意な発言から、猟友会員や役員のみなさんなどにご迷惑とご心配をおかけした」と謝罪の言葉を述べたとのことです。また、松井秀紀町長も「町政を預かる立場から、心からおわび申し上げる」と陳謝し、現在は再発防止と猟友会の出動再開に向けて、「ヒグマ捕獲対応マニュアル」の作成が進められているといいます。
この議会での陳謝は、事態の収拾に向けた一歩と見なされる一方で、国民の間からは依然として懐疑的な声が相次いでいます。批判の的となっているのは、海田副議長が猟友会に出向いて直接謝罪したのではなく、あくまで議会の場での陳謝に留まった点です。トラブルの当事者である猟友会の面々に直接謝意が伝わらない形式をとったことに対し、「猟友会に直接謝るのが筋では」「辞めさせてやるからな!て言い放った本人のところに出向いて直接謝れよ」「形だけの陳謝しても何の意味もない」といった指摘が多数寄せられています。住民の安全が脅かされ、地域社会に大きな混乱を招いた問題は、最低限の“陳謝”だけで解決する段階ではないとの認識が広がっています。
会議室で陳謝する様子のイメージ
住民が安心して暮らせる日が来ることを願う声が上がる中、この一連の騒動は、地方行政におけるリーダーシップのあり方、危機管理体制、そして住民と専門家集団との信頼関係構築の重要性を改めて浮き彫りにしました。形だけの謝罪ではなく、真に問題解決と信頼回復につながる具体的な行動が今後も求められています。
まとめ
積丹町のヒグマ騒動は、町議会副議長・海田一時氏の不適切な発言から猟友会の出動拒否を招き、町民の安全を脅かすだけでなく、学校の休校や爆破予告といった深刻な事態に発展しました。海田氏の議会での陳謝は行われたものの、猟友会への直接的な謝罪が行われなかったことに対し、世間からはその誠意を疑問視する声が多数上がっています。この問題は、単なるパワハラに留まらず、地方行政の責任、危機管理の甘さ、そして地域社会における信頼関係の重要性を浮き彫りにするものとなりました。今後、真の解決と住民の安全確保に向けた具体的な取り組みが強く求められています。





