東京国立博物館、前庭の池を芝生化する新プロジェクトに賛否両論

東京・上野に位置する日本最古の博物館、東京国立博物館(以下、東博)が11月10日、新たな挑戦となる「TOHAKU OPEN PARK PROJECT」を発表しました。このプロジェクトは、本館前庭の象徴的な池を芝生エリアへと生まれ変わらせ、誰もが快適に利用できる開かれた博物館を目指すものですが、発表直後からその内容を巡り、大きな波紋を呼んでいます。東博が2024年度に策定した「東京国立博物館 2038 ビジョン」実現に向けた施設面での第一歩と位置づけられており、2027年3月の完成を目指して改修工事が進められる予定です。

「TOHAKU OPEN PARK PROJECT」の概要と狙い

東博の発表によると、「TOHAKU OPEN PARK PROJECT」は、現在の本館前庭にある広大な池を、開放的で心地よい芝生エリアへと改修することを主眼としています。公開されたリニューアル後のイメージ図では、芝生が広がる空間に人々が集い、憩いのひとときを過ごす姿が描かれています。この新しい前庭を活用し、コンサートやビアガーデンといった多様なイベントを開催することで、これまでの博物館にはなかった新たな魅力を発信し、より幅広い層の来館者を引きつけたいという狙いがあります。プロジェクトの実施にあたり、改修費用を賄うための寄付を募るドネーションサイトも開設されており、財源確保への意欲がうかがえます。

歴史的建造物の背景と地元の声

東博の本館は、都立上野恩賜公園(通称“上野公園”)内にあり、1938年(昭和13年)に開館しました。洋風のコンクリート建築に和風の瓦屋根を配した「帝冠様式」を代表する建築物として知られ、2001年には国の重要文化財に指定されています。上野公園の中でも、上野駅側の賑やかな大噴水広場から奥まった場所に位置しており、これまでは常に静寂に包まれた特別な空間として、地元住民に親しまれてきました。地元のある住人は、「手前の大噴水までは人も多く賑わっていますが、奥まっている東博の周辺はいつでもひっそりと静寂に包まれていて、また特別な空間でした」と、その静謐な雰囲気を惜しむ声を上げています。

上野にある日本最古の博物館、東京国立博物館の本館と前庭の池上野にある日本最古の博物館、東京国立博物館の本館と前庭の池

博物館運営の現状と「稼げる文化施設」への圧力

東博は、今年10月24日にも所蔵する歴史文書の保存のために寄付を募り、多くの共感と支援を集めたばかりでした。しかし、その僅か1ヶ月足らずで今回の新プロジェクトが発表された背景には、国立博物館が置かれている厳しい財政状況があります。東博単体の収支は公表されていませんが、東博を含む5つの国立博物館を管轄する「独立行政法人国立文化財機構」の令和5年度予算の約75%にあたる95.8億円が国からの運営交付金で賄われています。一方で、入場料などの自己収入は全体の約13%にあたる約16億円に過ぎず、約6%の7億円を寄付に頼っているのが実情です。

全国紙文化部の記者によると、文化庁の「令和7年度予算(案)の概要」では「文化資源の保存・活用を支える拠点の機能強化」が掲げられ、東博の写真とともに「文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光推進事業」などに補正予算が付けられています。これは、国立の施設であっても「稼げる文化施設」を目指すよう促されていることを示唆しています。東博としては、建物や敷地環境の保全を望む一方で、予算を獲得するためには国のこうした方針に従わざるを得ない状況にあると考えられます。寄付のみで運営を維持していくことが困難であるという現実が、今回のプロジェクト推進の大きな要因となっているようです。

静寂か、賑わいか:揺れる東博の未来

今回の「TOHAKU OPEN PARK PROJECT」に対して、インターネット上では様々な意見が交わされています。多くの人々は、東博の歴史と伝統を尊重し、現在の静かで美しい庭園が失われることへの抵抗感を示しています。「正気か? あの噴水広場の前から見た本館の姿こそが東博のシンボルだと思っていたんだけど。あまりにもセンスが無い」「やめてほしい こんなことのために寄付してない こんなことするなら池の周りの椅子増やして 常設展の館内の椅子ももう少し増やして 上野公園がどれほど騒がしくてもトーハクの敷地内は静かだからいいのに」といった声が上がっており、特に、静かな環境で文化財と向き合いたいと考える既存の来館者からは、イベント重視の改修への懸念が表明されています。一方で、博物館の持続可能性を考えれば新たな集客策は不可欠と理解を示す声もあり、このプロジェクトが東博にとって吉と出るか凶と出るか、その行方に注目が集まっています。伝統の継承と現代のニーズへの対応、この二律背反する課題に東博がどのように向き合っていくのかが問われています。