立花孝志氏逮捕:選挙の常識を覆した「選挙ハック」の軌跡と名誉毀損の背景

政治家でありYouTuberでもある立花孝志容疑者が、名誉毀損の疑いで逮捕されました。数年にわたり選挙のたびに大きな話題を振りまき、公職選挙法のあり方に一石を投じる事態を度々引き起こしてきた同氏。政治家としてのキャリアが始まる以前から彼を知るライターの小川裕夫氏が、立花容疑者がいかにして「変な人」から「選挙ハック」の達人となり、現在に至ったのかを振り返ります。

元参議院議員・立花孝志氏、名誉毀損で逮捕

2025年11月9日、兵庫県警察は元参議院議員の立花孝志容疑者を名誉毀損の容疑で逮捕しました。その罪状は、元兵庫県議に対する名誉毀損であり、特に2024年の兵庫県知事選挙に深く関連する事案とされています。

「NHKをぶっ壊す」から始まった政治活動

立花氏は「NHKをぶっ壊す」というスローガンを掲げ、2019年の参議院議員選挙に出馬し、当選を果たしました。同選挙で得票率が2パーセントを超えたことで、彼が設立した「NHKから国民を守る党」は政党助成法に規定される政党要件を満たしました。しかし、国政政党の党首となった立花氏でしたが、約3か月で参議院議員を辞職。その後は、日本各地で行われる様々な選挙に立候補を繰り返すという独自の活動を展開してきました。

立花孝志氏が兵庫県知事選挙で第一声を上げる様子立花孝志氏が兵庫県知事選挙で第一声を上げる様子

注目を集めた2024年兵庫県知事選挙と「二馬力選挙」問題

立花氏の近年の活動で特に注目を集めたのは、2024年の兵庫県知事選挙でした。議会で不信任案が可決され知事を失職した斎藤元彦氏の出直し選挙に、立花氏も立候補しました。通常、知事の座を争う対立候補となるのが一般的ですが、立花氏自身には当選する意図がありませんでした。彼は街頭演説で公然と「斎藤氏に票を入れるよう」に呼びかけていたのです。この行動は、立花氏の立候補が斎藤氏を後方支援することを目的としたものであり、「二馬力選挙」として問題視されました。この選挙戦中、立花氏は斎藤知事を擁護するため、パワハラ疑惑などを追及していた百条委員会のメンバーに対して虚偽の内容を繰り返し発言し、発信していたとされています。街頭演説やSNSで流暢な弁舌を振るい、常に注目を集めてきた立花氏は、政治家としてどのような道のりを歩んできたのでしょうか。

“変な人”から“選挙ハックの達人”へ:ライターが語る立花氏の素顔

筆者は霞が関・永田町の取材歴約20年という経験を持つ中で、立花氏を初めて目にしたのは、彼が参議院議員に初当選する以前の2011年11月、自由報道協会で行われた記者会見でのことでした。自由報道協会は、フリーランスの記者、カメラマン、編集者などによって設立された組織で、「誰でも参加できる記者会見の開催」を目的としていました。その設立メンバーにはジャーナリストの上杉隆氏や、後に著書『黙殺 報じられない”無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した畠山理仁氏らが名を連ねており、筆者もその一員でした。

立花孝志氏の政治活動は、常に既成概念に挑戦し、選挙制度の隙間を突くような手法で世間を騒がせてきました。今回の逮捕は、その特異な政治手法がもたらした結果の一つであり、彼の今後の動向だけでなく、日本の公職選挙法のあり方や、情報発信の倫理についても改めて議論を促すことになるでしょう。