東京大学医学部附属病院の松原全宏准教授（53）は、長年歩んできたエリート街道が茨の道へと変わる事態に直面しています。11月19日、警視庁捜査2課は、医療機器メーカーからの収賄容疑で松原容疑者を逮捕しました。この事件は、社会に大きな衝撃を与え、医療界における倫理と透明性の問題に再び焦点が当てられています。
贈賄事件の概要と手口
贈賄側は東証プライム上場企業である医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム」（以下、エム社）です。同社の元営業所長である鈴木崇之容疑者（41）も贈賄容疑で逮捕されました。社会部記者によると、松原容疑者の逮捕容疑は2021年9月と2023年1月に、エム社側に東大病院の口座を伝え、計80万円を振り込ませ、そのうち約70万円を不正に受け取ったというものです。松原容疑者は救急・集中治療科に所属し、整形外科の「外傷診チーフ」として主に大腿骨の手術を担当しており、医療機器の選定権限を持っていました。
事件の発端は2019年春ごろ、エム社が松原容疑者に営業をかけたことでした。その半年後には、エム社製の大腿骨用インプラントが優先的に使用されるようになったといいます。この見返りとして、松原容疑者は「奨学寄付金」の名目で賄賂を振り込ませていました。東大病院の寄付金制度では、病院の取り分を除いた約85％が寄付先の医師に配分され、その使途は大学当局によってチェックされないという実態がありました。本来、研究資金に充てられるべき寄付金が、松原容疑者によって私的な用途に流用されていたのです。
東京大学医学部附属病院の外観
エリートキャリアと私的流用の実態
松原容疑者は、そのキャリアの大半を東大病院で過ごした紛れもないエリートです。私立男子“御三家”の一角である武蔵高校から東京大学医学部へと進み、1997年3月に卒業。翌年医師国家試験に合格後すぐに東大病院に医師として採用されました。関連病院への出向勤務を経て、2007年に東大病院に戻って以来18年間、輝かしい実績を積み上げてきました。
東大病院関係者からは困惑の声が上がっています。「彼は大学時代、医学部のアメフト部で競技に打ち込み、きちんと医師免許も取得した。最近も後進の指導にあたっていた。確か3人の子どもは全員私大の医学部に入学させたはずだ」と語る関係者もいますが、学費と今回の収賄事件との関係については言及を避けています。
今回の逮捕容疑を含め、松原容疑者の元には2016年12月から2023年1月までに、エム社と同業他社の計5社から10回にわたり、総額約350万円の寄付金が振り込まれていました。松原容疑者はそのうち約300万円を私的に受け取り、少なくとも約150万円を私的流用していたことが明らかになっています。大学生協などで私用のパソコンや親族へのプレゼント用タブレット、ワイヤレスイヤホンなど、計20点もの品物が購入されていたといいます。
この事件は、医療機関における寄付金制度の運用と監視のあり方、そして医師の倫理観が問われる重大な問題提起となっています。信頼されるべき医療の現場で起きた不正行為は、社会全体に深い失望と不信感を与えかねません。
