「子供を殺して」と願う親たち:タワマン家庭に潜む親子関係の闇

衝撃のノンフィクションを漫画化した『「子供を殺してください」という親たち』が、現代社会に深く根差す家族の闇を鮮やかに描き出しています。原作を手がけるのは、精神障害者移送サービスの第一人者である押川剛氏。彼が実際に直面した数々のケースの中から、今回は特に「依頼にならなかった家族たち」と題された、歪んだ親子関係が悲劇的な結末を迎える衝撃的な事例に焦点を当てます。この物語は、単なる家庭内の問題を超え、人間の本質と社会の病理を浮き彫りにします。

母親を「女」として意識する息子:タワマンに潜む歪み

トキワ精神保健事務所には、精神的な問題を抱える人々やその家族からの様々な相談が寄せられます。その中には、複雑な家族関係に起因する深刻なケースも少なくありません。今回取り上げる沢入真(25歳・仮名)の事例は、特に漫画のタイトルを象徴するような衝撃的な内容を含んでいます。

都心のタワーマンションに住み、裕福な暮らしを送る沢入一家。しかし、母親からの相談内容は、息子である真の幼少期からの育てにくさ、複数の精神診断名、異常な金銭感覚による散財、そして親への暴力といった、一般的な「困った子」の範疇を超えるものでした。特筆すべきは、息子が母親を「女」として意識し、実際にその意識に基づいた行動にまで及んでいたという異常事態です。

心理学者フロイトが提唱するエディプスコンプレックスは、息子が母親を自分のものにしたいと願い、同性の父親に敵意を抱く心理を指します。しかしこのケースでは、少なくとも相談の段階においては、父親の存在感が極めて希薄でした。億を超えるタワーマンションでの暮らしや息子の散財ぶりから、父親が経済的に大きな成功を収めていることは明らかでしたが、家庭内の精神的な支柱としては機能していなかったのです。

母親はまるで経理担当者のように、息子の散財を示す領収書や請求書を几帳面に整理していました。そして、息子のことを語る母親の姿は、まるで金遣いの荒い「ダメ男」について話す一人の女性のようであったと押川氏は振り返ります。

「親」としての不在と「女性」としての自己防衛

押川氏の主観によれば、この家庭の両親は「父親」と「母親」であるにもかかわらず、究極的には「男」と「女」として生きていました。表面上は子どもに医療を提供し、不足のない生活を与えていたものの、子どもの「良いところ」を尋ねても一つも挙げられない状態でした。両親は子どもに対し、人間としての根源的な安心感を与えてこなかったのかもしれません。

そうして息子は成人し、父親(男)が不在がちな家庭環境の中で、母親を「女」として認識するようになります。この時、母親の中にあったのは、我が子を守り助けるという「母性」よりも、「女性としての自己防衛」だったのではないかと押川氏は考察しています。それが、「子どもを殺してください」という、親として最も禁忌とされる言葉につながったと分析されています。

「子供を殺してください」という衝撃的なテーマを描いた作品「子供を殺してください」という衝撃的なテーマを描いた作品

唯一の解決策としての「家族解体」と悲劇の結末

押川氏がこのようなケースに介入する場合、その答えは「家族解体」しかないと語ります。親も子どもも一旦ゼロベースに戻り、それぞれが独立した個人として生きる道を探るというものです。しかし、この母親は父親が稼ぐ金への未練があったのでしょう。「1円たりとも払いたくない」という言葉に、その本音が滲み出ていました。

結局、このケースは相談のみで終わってしまいます。そして後日、息子が父親を殺害したという結末を知った時、押川氏は愕然としながらも、「やはり」と冷静に受け止めたといいます。彼の仕事は、様々な形で「死」と向き合うことの連続だからです。

今にして思えば、母親は「父親が殺されるかもしれない」という予感を持ちながら相談に来ていたのかもしれません。それもまた、「男」と「女」の関係の最終的な結末であったように感じられます。現代社会の暗部で静かに進行する家族と社会の闇をえぐり、その先に光を当てる『「子供を殺してください」という親たち』は、私たちに多くの問いを投げかけます。


参考文献

  • タワマン暮らしの息子が母親を「女」として意識→父親の身に起こった「衝撃の結末」に戦慄する. ダイヤモンド・オンライン. https://diamond.jp/articles/-/377939