日本人を長年魅了し続ける国民食、牛丼。中でも老舗「吉野家」は根強い人気を誇ります。チェーン店の醍醐味は、全国どこでも均一の美味しさを楽しめることですが、経済誌『プレジデント』の元編集長である作家の小倉健一氏は、この常識に異を唱えています。同じ看板を掲げながらも、なぜか店舗によって味や満足度に違いを感じることがある、と彼は指摘します。では一体、日本一美味しい吉野家はどこにあるのでしょうか？本記事では、この深遠な問いに対し、京セラやKDDIを創業し、日本航空（JAL）を再建した故・稲盛和夫氏のエピソードや「食と人間」の心理を探る考察を通じて、その答えに迫ります。
経営の神様・稲盛和夫が愛した「聖地」吉野家
京セラと第二電電（現KDDI）を創業し、さらに破綻寸前だった日本航空（JAL）を無給で再建した稀代の経営者、稲盛和夫氏は、その徹底した庶民派ぶりでも知られていました。JAL再建の激務の中、昼食はコンビニのおにぎり二つで済ませる日々もあったと伝えられます。彼自身、「530円の豚玉（お好み焼き）を食べている時に最高の幸せを感じる」と語るほど、食に対する価値観は質実剛健そのものでした。
そんな稲盛氏がこよなく愛したのが、吉野家の牛丼です。2014年の雑誌『PRESIDENT』の取材によれば、稲盛氏は吉野家に対する並々ならぬこだわりを明かしています。彼は、京セラの東京事業所に近かった有楽町店と、JAL本社に近い浜松町店の味の違いを明確に利き分けることができたと言います。この二つの店舗こそが、稲盛和夫にとっての「聖地」だったのです。
経営の神様・稲盛和夫も愛したとされる吉野家の一店舗
なぜ店舗によって「最高の味」が生まれるのか？
稲盛氏が特定の吉野家店舗を特別視した理由は、両店が常に客で賑わう繁盛店であった点にあります。繁盛店では、牛丼の「命」とも言える肉とタレの回転が極めて速いのが特徴です。具材が長時間煮詰まることなく、常に新鮮で、吉野家が理想とするマニュアルに忠実な味が提供されやすい環境が整っています。この「回転率」の高さこそが、店舗ごとの味の差を生み出す大きな要因となっていると考えられます。
また、活気ある店舗の雰囲気や、店員の活き活きとした接客なども、消費者の「美味しさ」の感じ方に影響を与える可能性があります。食体験は単に味覚だけでなく、視覚、聴覚、そして心理的な要素が複雑に絡み合って形成されるものです。「最高の吉野家を見つけ出す旅」は、単なる店舗探しを超え、食と人間の深層心理を探る冒険と言えるでしょう。
まとめ
吉野家の牛丼は、全国一律の品質を保つことを目指しながらも、店舗ごとの「味の差」が話題となる興味深い現象です。稲盛和夫氏のエピソードが示すように、その差は繁盛店における具材の新鮮さ、すなわち「回転率の速さ」に起因すると考えられます。消費者一人ひとりの食体験は多様ですが、もしあなたが「最高の吉野家」を探しているのであれば、活気があり、常に多くのお客で賑わっている店舗を選んでみるのが一つのヒントになるかもしれません。
参考文献:
