「存立危機事態」に関する高市早苗首相の答弁をきっかけに、日中両国間の対立が激化している。発端となった11月7日の衆議院予算委員会での発言から3週間以上が経過した現在も、事態収束の兆しは見えていない。このような緊迫した状況の中、意外な人物からの助け舟や、身内には頼れない複雑な人間関係が浮き彫りになり、まるでスパイ映画のような展開を見せている。
トランプ前大統領の介入と報道の食い違い
事態の解決に向けて動き出したのは、アメリカのドナルド・トランプ前大統領だ。11月26日、トランプ氏は高市首相に電話をかけたと報じられた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、その電話でトランプ氏が「台湾に関する問題で、中国政府を刺激しないよう助言していた」と報じたが、日本政府はこの報道に強く反発。木原稔官房長官は翌27日午後の会見で、「そのような事実はなく、WSJ側に対してすでに“申し入れ”を行った」と断言した。
しかし、他の主要メディアも同様の内容を報じており、情報の食い違いが顕著だ。朝日新聞は「事態の鎮静化を図る必要があるとの認識を示した」と伝え、ロイターは「日中関係悪化のさらなるエスカレーションを望まないとの考えを伝えてきた」と報じた。さらに共同通信は、「日中両国の対立に懸念を示していた」「対立のエスカレートを避けるように要請」と踏み込んだ内容を報じたものの、共同通信に対しては官邸からの“申し入れ”はなかったと見られる。
「台湾有事」発言をめぐる高市首相の複雑な状況
高市首相の立場と政府の軌道修正
官邸としては、日中関係を穏便にやり過ごしたいのが本音だろう。しかし、高市首相の「存立危機事態」に関する発言は「間違っていない」という立場であり、これを撤回することは極めて困難だ。発言の撤回は、これまでの政府答弁の内容そのものを否定することにも繋がりかねないため、首相は頑なな姿勢を崩せずにいる。
外交においては、単に「事実を主張すればいい」というだけでは通用しない。相手に出てくる口実を与えないことこそが最も重要であり、その口実を与えてしまえば「負け」に繋がる。故・安倍晋三元首相が「平和安全法制」を制定して以降の歴代政権は、一貫して「中国を刺激しない表現」を用いることに腐心してきた経緯がある。
安倍元首相の「台湾有事」発言との比較
参考までに、故・安倍晋三元首相が「台湾有事は日本の有事」と明言したのは、首相の地位を退いた後の2021年12月に台湾でのシンポジウムにリモート参加した際のことである。首相在任中は意識的に台湾との接触を避けていたとされており、その慎重な姿勢がうかがえる。しかし、一政治家としてのこの発言に対しても、当時、中国政府は「強烈な不満と断固たる反対」を表明しており、台湾問題を巡る日中間の緊張の根深さが浮き彫りになった。
高市首相の発言を巡る一連の事態は、日本の外交における微妙なバランスと、国際社会からの期待、そして国内政治の板挟みという、首相の極めて難しい立ち位置を明確に示している。日中関係の今後の行方は、依然として不透明な状況が続いている。





