近年、冷え込む日中関係が日本のエンターテインメント業界に深刻な影を落としています。先日、歌手の浜崎あゆみさんが中国・上海での公演を急遽中止したことを自身のインスタグラムで明かし、大きな注目を集めました。一連のコンサート中止は、具体的な理由が「やむを得ない事情」と説明されるものの、緊迫化する日中関係の悪化が背景にあることは疑いようがありません。
日本人アーティストを襲う中国公演中止の波
浜崎あゆみさんは、11月29日に予定されていた上海公演の中止を、前日の28日にインスタグラムのストーリーズで発表しました。その後の投稿では、「中止要請の後、無観客の状態で一曲目からアンコールまで行い、会場を後にした」と、ファンへの強い思いを綴っています。彼女の公演中止は氷山の一角に過ぎず、同時期に他の日本人アーティストも同様の事態に見舞われています。
11月28日に上海で開催された「バンダイナムコフェスティバル2025」では、人気歌手の大槻マキさんが歌唱中に照明や音響を突然止められ、パフォーマンスが強制的に中断されました。さらに、人気アイドルグループのももいろクローバーZも、同フェスに29日に出演予定でしたが、前日に出演中止が発表されています。これらの事態は、アーティスト側に責任があるわけではなく、外部からの「中止要請」や「出演中止」という形で伝えられており、日本のエンタメ業界に大きな動揺を与えています。
中国での公演中止が発表された人気アイドルグループ、ももいろクローバーZ
緊迫化する日中関係がエンタメ界に与える影響
日本人アーティストの中国公演中止が相次ぐ背景には、日中間の政治的緊張が深く関わっていると考えられています。全国紙政治部記者によると、特に影響を与えているのは、11月7日の衆院予算委員会における高市早苗首相（64）の台湾情勢に関する発言です。高市首相は、中国が武力を行使した場合に「存立危機事態になりうる」とし、状況によっては集団的自衛権を行使する可能性を示唆しました。
中国は台湾を「中国の一部」と見なし、「核心的利益」と位置づけているため、この発言に猛反発。日本産水産物の事実上輸入停止や訪日自粛の呼びかけなど、日本への圧力を強めています。一連のコンサート中止が中国政府による直接的な指令であるかは不明ですが、日中関係悪化の明確な影響であることは間違いありません。政治的緊張が、文化交流というデリケートな分野にも波及している現状が浮き彫りになっています。
「親中国」姿勢が活動を左右？ メイリアの異例の成功
日中関係の冷え込みが多くの日本人アーティストの活動を阻む中、異例ともいえる成功を収めているのが歌手のメイリアさんです。かつては水橋舞の芸名で活動し、その後「GARNiDELiA」としてメジャーデビュー、ソロ活動でも人気を博しています。彼女はXで22万人のフォロワーを抱えるなど、高い知名度を誇ります。
メイリアさんが特に注目を集めたのは、11月18日に中国のSNS「Weibo」に投稿した内容でした。彼女は「中国は私にとって第二の故郷であり、私は永遠に一つの中国を支持する」「中国の友人たちは皆私が大切に思う家族」と発言。この「親中国」とも取れる姿勢は、彼女が2016年の楽曲で中国の若者から絶大な支持を得ていたこと、そして2023年の中国のオーディション番組で好成績を収め、中国での人気を決定づけたことに起因します。「美依礼芽」という愛称で親しまれ、その認知度は日本以上とも言われています。こうした背景もあり、メイリアさんの活動には大きな影響が出ていないようです。実際、彼女は11月22日に中国・北京のスタジアムで予定通り大型ライブ公演を敢行し、その成功を中国語でインスタグラムに報告しています。
まとめ
日中関係の緊張は、日本人アーティストの中国での活動に深刻な影響を与えています。浜崎あゆみさんやももいろクローバーZの公演中止が相次ぐ一方で、メイリアさんのように「親中国」と見なされる姿勢を示すことで、活動を継続できている事例も存在します。これは、国際情勢が文化交流のあり方にも直接的な影響を与え、アーティスト個人の政治的スタンスが活動の機会を左右する可能性を示唆していると言えるでしょう。すべての日本人アーティストが、政治的背景に左右されることなく、自由に中国でパフォーマンスできる日が一日も早く戻ることを願わずにはいられません。
