高市首相発言に中国が反発:「台湾有事」は日本にとっての「存立危機事態」となるのか

高市首相が「台湾有事は存立危機事態になりうる」と発言したことに対し、中国は強く反発しています。もし台湾有事が発生した場合、日本はどのような立場に置かれるのでしょうか。元海上自衛隊幹部でYouTuberのオオカミ少佐の著書『元海上自衛隊幹部が教える 国を守る地政学入門』に基づき、その詳細を解説します。台湾をめぐる情勢は、日本自身の安全保障に直結する喫緊の課題であり、その本質を理解することは極めて重要です。

高市首相と習近平主席の会談の様子。高市首相と習近平主席の会談の様子。

米シンクタンクCSISが実施した「台湾有事」シミュレーションの結果

台湾有事は、事実上「日本有事」と捉えるべき事態であると言っても過言ではありません。世界の防衛・安全保障問題において高い評価を受けるアメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は、2023年に中国による台湾への軍事侵攻を想定した詳細なシミュレーション結果を公表しました。

このようなシミュレーションは「図上演習」とも呼ばれ、自衛隊や各国の軍隊でも定期的に実施されています。自衛隊の演習が指揮官や幕僚の判断力向上を目的とし、単一のシナリオを通して行われることが多いのに対し、CSISのシミュレーションは、台湾侵攻の成否を分ける要素を徹底的に洗い出すため、24種類もの異なるシナリオを用意して行われました。

シミュレーションにおける中国の勝利条件は台湾の制圧、一方、日本・アメリカ・台湾側はこれを阻止できれば勝利と定義されました。24回実施されたシミュレーションのうち、22回は甚大な被害を伴いながらも日本・アメリカ・台湾側が勝利を収めています。中国が敗北したこれらのシナリオにおいて、中国が最も成功したケースですら、占領できたのは台湾の面積の4分の1にも満たない地域に留まりました。

中国が勝利した「2つの例外的なケース」

CSISのシミュレーションの目的は、「ほとんど勝っているから良し」とするのではなく、「なぜ2回敗北したのか」という原因を詳細に分析することにありました。中国が勝利を収めた2つのシナリオは、他の22のシナリオと決定的に異なる点がありました。

その一つは「アメリカが台湾有事に軍事介入しなかった場合」。もう一つは「日本が米軍に対し基地使用を認めず、中立の立場を取った場合」でした。これらの状況下でなぜ台湾は敗北を喫してしまうのでしょうか。

令和6年度版防衛白書によると、世界各国の軍事力に関する詳細なデータをまとめた年次報告書「ミリタリーバランス2024」に基づけば、正規軍のみの戦力差は中国が約204万人に対し、台湾は約17万人と圧倒的です。海上戦力や航空戦力においても、中国が台湾を大きく上回っています。台湾は中国と海を隔てているため、中国が陸上戦力を台湾に侵攻させ、かつ上陸した部隊を維持するためには、海上交通路を通じた安定した補給線を維持することが不可欠です。これは中国にとって著しく不利な要素であり、補給の限界が送り込める陸上戦力の限界に直結するため、中国が台湾侵攻に投入できる陸上戦力は全体の一部に過ぎません。

台湾単独ではなぜ中国に抗しきれないのか

一般的に、民間人が侵攻軍に敵対的な国の領土を制圧するためには、人口50人あたり1人の兵士が必要とされています。人口2300万人を超える台湾を完全に制圧するには、40万人から50万人もの陸上戦力が必要となります。中国がこの規模の戦力を準備することは可能ですが、実際に上陸させ、継続的に補給を行うとなると、現実的に送り込める戦力の数は10万人程度に留まると推測されています。

このため、台湾は中国に対し、限られた戦力で防衛可能であると考えることもできますが、それでも戦力差があまりにも大きすぎるため、単独で戦った場合の勝利の可能性は極めて低いと言わざるを得ません。

例えば、GDP比で10倍もの差があるロシアを相手に、ウクライナはアメリカを中心とする西側諸国の直接的な軍事支援を受けることなく、兵器供与や資金援助といった一部の支援のみで持ちこたえています。しかし、この「ウクライナモデル」は台湾有事においては有効ではないと見られています。

1949年の金門島防衛戦と現代の状況

1949年、台湾は金門島をめぐる戦いにおいて、独力で中国軍を撃退することに成功しました。この戦いは1949年10月25日から27日にかけて発生し、国共内戦に勝利した中華人民共和国(共産党)が台湾に逃れた中華民国(国民党)を追撃したものの、わずか2kmの海峡に阻まれ、上陸部隊はわずか3日間の戦闘で壊滅しました。これにより、台湾は現在に至るまで金門島を保持しています。

しかし、現代においては、当時の状況とは比較にならないほど戦力差が拡大しています。そのため、アメリカの軍事介入なくして台湾が自らの領土を守り抜くことは極めて困難であるというのが現実的な見方です。

以上のシミュレーション結果や軍事力分析は、「台湾有事」が単なる台湾の問題に留まらず、日本の安全保障に直接的な影響を及ぼす「存立危機事態」となりうることを明確に示しています。日本の安全と地域の安定のためには、アメリカとの連携強化と、有事における役割の明確化が不可欠です。