今年の春、「財務省解体デモ」という社会運動が世間の注目を集めたことを記憶しているだろうか。東京・霞が関の財務省庁舎周辺をはじめ、各地の財務局前で「財務省解体」を主張する人々が集まり、街頭宣伝活動が活発に行われた。特に3月14日の「全国一斉財務省解体デモ」には数千人規模の参加者が集結し、複数の大手メディアでも報じられるほどの規模となった。かつて話題を呼んだこのデモは、その陰謀論にまみれた実態と盛衰が論じられたが、今やほとんど顧みられることはない。しかし、この運動はその後、予想もしない方向へとつながっていく。実は、最近各地で行われている「移民反対」の街頭宣伝やデモのほとんどが、「財務省解体デモ」を源流としているのだ。本稿では、11月28日の発売以来大きな反響を呼んでいる書籍『陰謀論と排外主義 分断社会を読み解く7つの視点』の執筆者の一人である山崎リュウキチ氏の分析に基づき、この変遷の経緯を追っていく。
「財務省解体」運動の台頭とその背景
「財務省解体デモ」は、消費税増税や財政政策に対する不満を背景に、SNSを中心に拡散した。当初は経済政策への異議が中心だったものの、次第に「日本の富が外国に流出している」「財務省はディープステートの手先」といった陰謀論が付随するようになり、参加者の裾野を広げていった。デモは一時期勢いを増したが、その主張が過激化し、特定の陰謀論に傾倒するにつれて、一般からの支持を失い、求心力を低下させていった。
「自民党解体」への過激化と排外主義の顕在化
2025年5月25日、永田町の自民党本部前には約200人が集まり、「自民党解体」を訴える街頭宣伝が行われた。この活動を主催したのは、元々「財務省解体デモ」に参加していたYouTuberで、以前紹介された反ワクチン団体「日本列島100万人プロジェクト」も協力していた。現場では、ある男性が「自民党はディープステートに忠誠を誓うニセ日本人!仮面ライダーのショッカーと同じだ!」と叫び、別の女性は「自民党はワクチンで大量に人殺しをしている!」と過激な言葉を投げかけた。これらは、初期の「財務省解体デモ」にも参加していた人物たちの発言である。
参加者の中で特に目立ったのは、「自民党は中国を優遇している」という主張だった。ある女性は、当時石破政権下で外務大臣を務めていた岩屋毅氏に対し、「岩屋は死刑だよ!殺すんだよ!」と絶叫した。岩屋氏は前年12月に中国人向けビザの取得要件緩和を表明したことから「中国寄り」と見なされ、「65歳以上の中国人をビザなしで入国させる」といった誤情報が飛び交っていたのだ(緩和措置自体も現時点では実施されていない)。この女性はその後、自民党本部ビルに向かって呪詛めいた言葉を唱え、人差し指と中指を揃えて「自民党を焼き尽くせ!エーイッ!」と叫びながら突き出すという異様な行動に出た。
10月26日、名古屋駅前で行われた移民政策反対デモの様子
「財務省解体デモ」には元々排外主義的な言説が飛び交っていたが、「自民党解体デモ」以降は「財務省」という対象が取り払われたことで、運動は急速に先鋭化していった。
「石破やめろ」デモと陰謀論の広がり
8月31日には、同じ主催者が首相官邸前で「石破やめろデモ」を行った。街頭宣伝の先頭には「財務省解体」系の団体と「日本列島100万人プロジェクト」の幟が見られ、参加者の列は国会記者会館周辺のブロックを半周以上する距離まで伸び、1000人単位の参加者を集めた。「財務省解体」からのトレンドの移り変わりを如実に表す結果となった。
「石破やめろ」が名目であったものの、街頭宣伝の後半では列の中から口々に「岩屋もやめろ!」との声が飛び交い、「自民党解体デモ」と地続きの運動であることが明らかだった。以前「自民党はショッカー」と叫んでいた男性も今回も参加しており、「不正選挙の証拠」なるチラシを配布していた。また、「製薬会社(DS)のコロナワクチン詐欺から日本を守ろう」というプラカードを持参した男性は、隣の参加者と「日航123便事故の真相」について語り合うなど、様々な陰謀論が混在していた。参院選での自民党の大敗を受け、石破政権の動向が注目されていた時期であり、大手メディアも取材に訪れていたが、こうした運動の背景にある陰謀論や排外主義に触れる報道はなかった。
まとめ:社会運動の変容と今後の課題
一連の動きは、「財務省解体」という経済政策批判から始まり、「自民党解体」という政権批判を経て、最終的に「移民反対」という排外主義的な主張へと変貌を遂げた日本の社会運動の軌跡を示している。特定のターゲットへの不満が、陰謀論を媒介として、より広範な外国人排斥へと向かうプロセスは、分断が深まる現代社会の課題を浮き彫りにする。表面的な政治批判の裏に潜む陰謀論や排外主義的感情に対し、社会全体でどのように向き合い、建設的な議論を促進していくかが、今後の重要な課題となるだろう。
参照元: https://news.yahoo.co.jp/articles/59ea27c6abec1363d95eee9bc58f1a245e9bd6cb





