埼玉県行田市が、市有地への大手コーヒーチェーン店(スターバックス)出店に反対する署名活動を行っていた市民に対し、身に覚えのない「発起人撤回届」や「署名撤回届」を作成していたことが、市民の情報公開請求により明らかになりました。市長らが反対署名の発起人を戸別訪問した際、具体的に内容を明示しないA4判の白紙に署名させていた経緯があり、「白紙委任」の強要が疑われています。
背景:スタバ誘致計画と市民の反対運動
行田市は、市有地である公園内にスターバックスコーヒーを誘致する計画を進めていました。これに対し、公園内の公民館利用者などから、駐車場の半減による不便さや利用制限への懸念が表明されました。市民らは計画反対の署名活動を展開し、市とスターバックスに要望書を提出。その結果、スターバックスと市は計画中止を発表しました。しかし、この過程で、市が戸別訪問を通じて署名発起人に白紙委任を求めた疑いが浮上していました。この対応に疑問を抱いた発起人の堀口充子さん(89歳)らが保有個人情報の開示請求を行ったところ、市は「発起人撤回届」および「署名撤回届」を開示しました。
「発起人撤回届」の疑惑:白紙署名の真実
堀口さんは、開示されたこれらの書類は自身が書いたものではないと明確に述べています。これは、堀口さんが署名させられた白紙の上に、市が事後的に上記の文章を追加して作成した可能性が極めて高いことを示唆しています。市側は当初、筆者の問い合わせに対し白紙委任を強要していないと回答していましたが、その回答が虚偽であった可能性が濃厚です。
当初は委任内容が記されていなかったとされる「発起人撤回届」。情報公開請求で明らかになった。(撮影/木下寿国)
市民への圧力と精神的苦痛
堀口さんは、損害賠償金の支払いを持ち出され脅しに屈する形で白紙に署名させられたと語っています。反対署名の関係者らが開催した経過報告会では、「白紙署名が何に使われるのか、不安と恐怖でその夜は眠れなかった」と堀口さんが当時の心境を吐露しました。また、発起人という立場でありながら結果的に意見を変える形になったことに対し、署名者への「申し訳なさ」を後悔の念とともに口にしています。市は、善意の市民を違法ともいえる行為によって精神的に追い詰めたことになります。
報告会では市への批判が相次ぎました。「忍・行田公民館の駐車場を守る会」の小林順子さんは、市が独断で計画を開始したことを批判。この間、「あなたが自殺しなきゃいいけど」「まちを歩けなくなるぞ」といった脅迫電話も受けたといいます。会は結果的に解散しましたが、それは市が主張するような目的達成のためではなく、市長後援会の人物から提訴の準備が進められていると伝えられたためでした。小林さんは「提訴の脅しに屈してしまったが、解散すべきではなかったと後悔している」と述べ、堀口さん同様の苦悩を語りました。
市の説明と市民側の反論
市は戸別訪問の理由として、計画では署名者側の主張とは逆に駐車台数が増えることを説明するためだったとしています。しかし、「行田市のスタバ問題を考える会」は、新たな駐車場を建設しても総台数は減少すると反論し、市の説明が誤っていると指摘しています。小林さんも、駐車場増設の計画は市民が署名を提出した後に発表されたものであり、「署名を撤回させるために拙速に考えたもの」だと市の対応を批判しています。
公共性への警鐘
「行田の明日を考える会」の松井秀二郎さんは、「公園や公民館は市民のもの。市が好き勝手に何をやってもよいというものではない。そこを直していかないとまた同じことが起きる」と述べ、市の行動に警鐘を鳴らしました。公共の場における行政の恣意的な判断と、市民の声に対する不誠実な対応は、民主主義の根幹を揺るがしかねない問題として、さらなる透明性と説明責任が求められています。
この問題は、行政の進め方や市民との対話のあり方について、重要な問いを投げかけています。市には、市民の信頼を取り戻すための誠実な対応が強く求められます。





