リニア工事が行われる静岡工区は南アルプスの奥山で、クマが何度も目撃されている。ジャーナリストの小林一哉さんは「リニア工事でクマの生息地を侵した結果、人里にクマが出没するなどということがあれば目も当てられない」という――。
【写真をみる】自動撮影カメラで撮影された南アルプス地域のツキノワグマ(静岡県提供)
■リニア工事に突如現れた「クマ対策」という難問
JR東海がリニア中央新幹線のトンネル工事を行う静岡工区は、人里、山里から隔絶された南アルプスの奥山に位置する。全国的にクマの被害が深刻化し、人間の生活圏への出没が問題となる中で、リニア工事が直面するのは、クマの「生息域」でいかに安全に工事を進め、自然と共存するかという新たな難問だ。
ことし4月から10月までにクマによる人身事故が東北、北陸などで176件発生し、被害者は196人、11月20日までに13件の死亡事故が起きて過去最高となった。この結果、クマの被害対策に関する関係閣僚会議が初めて設けられ、クマの駆除が喫緊の課題となり、人間の生活圏に出没するクマはすべて駆除対象となっている。
南アルプス地域には300頭から600頭のクマが生息すると推定されるが、リニア工事が行われる大井川上流部で調査が行われたことはない。
作業員らは実際に、大井川上流部のリニア工事現場近くでクマを何度も目撃しているというから、奥山には数多くのクマが生息する可能性がある。クマの生息地である森などの自然環境を開発していくのだから、何があってもおかしくない。
■クマの生息状況を知る絶好の機会でもある
工事着手となれば、南アルプス上流部の工事は10年以上続くこととなり、それこそ、JR東海にとってクマ対策とともにクマとどのように共存するかが大きなテーマとなるはずだ。
ただでさえ遅れているリニア工事が、クマ被害によってストップするなどという事態は何としても避けたいのは言うまでもない。
まだ具体的には決まっていないが、JR東海は作業員の安全確保を最優先に、自動撮影カメラを使った生息状況の調査や、クマが住みやすい環境保全などで静岡県と協力していくことになるだろう。
リニア工事現場となる大井川上流部は環境保全団体などが立ち入ることができないから、JR東海の果たすべき役割は非常に大きいと言える。






