「子どもがなかなか勉強を頑張らない」という悩みは、多くの親が抱える共通の課題です。小児精神科医であり3児の母でもある内田舞氏のもとにも、子どもが「勉強でやる気を出すにはどうすればよいか」という相談が多数寄せられると言います。本記事では、子どもの「学び」に対する考え方や、親が取り入れられる具体的な工夫について、内田氏の著書から一部を抜粋・編集し、解説します。
勉強への「やる気が出ない」背景:子どもの視点と親の役割
親御さんからの勉強に関する相談は、成績向上だけでなく、「なかなか頑張らない」「すぐにあきらめる」「根気が続かない」といった、子どもの勉強に対する姿勢や気持ちの面に集中しています。多くの子どもにとって、全ての教科を好きになることは難しく、「何のために勉強するのか」という目的も漠然としているのが現状です。友達と遊ぶことやゲーム、漫画など「目の前の楽しいこと」に興味が向くのは自然なことであり、勉強のように長期的な積み重ねが必要なものに目を向けさせるのは容易ではありません。
大人は自身の経験から「頑張れば将来どうなるか」という見通しをある程度持っていますが、子どもはその時間軸や経験値が異なります。彼らはどうしても「今、この瞬間にやりたいか、やりたくないか」という気持ちを重視しがちです。しかし、この気持ちを頭ごなしに否定するべきではないと内田氏は語ります。
内田氏自身も、小児精神科の専門医になるための大変な試験勉強や、3年ごとの更新試験で大量の論文を読む必要があり、自身の専門分野であっても「つまらない、やりたくない」と感じることがあると言います。
机に向かって勉強する子どものイメージ
親が「私も子どもの頃は嫌だったけど我慢してやったから、あなたもやりなさい」と突き放すのではなく、「私も勉強は嫌いだったし、今でも辛いと思う。あなたも同じ気持ちだよね」と、子どもの「大変だよね」という気持ちに寄り添い、共感する姿勢が大切です。この共感こそが、子どもがやる気を出すための第一歩となるでしょう。
受験文化が影響?「学びの楽しさ」を見失う日本の教育
大人になって子どもの頃を振り返ると、日本の学校教育、特に勉強は受験文化の影響を強く受けていると感じるかもしれません。本来、勉強とは、未知の事柄に出会い、興味を持ったことを追求する、大変でありながらも楽しい営みであるはずです。
しかし、変化の兆しはあるものの、現状では受験を視野に入れた勉強は、与えられた情報を記憶することが中心になりがちです。本来、人はそれぞれの興味やタイミングに応じて社会に貢献できるはずですが、受験勉強では「決められた受験日に、与えられた問題を時間内に解けるか」という軸で価値が判断されてしまう傾向があります。
学校で教えられる教科以外にも、学んでみると楽しいことはたくさんあるにもかかわらず、現代の子どもたちは、学校の教科だけを頑張ることを求められがちです。これは、学びの本質である「探求する喜び」を見失わせる原因にもなりかねません。
まとめ:共感から始まる子どもの学習意欲
子どもが勉強にやる気を見せない時、その背景には、大人とは異なる時間軸や興味の対象、そして日本の教育システムが持つ受験文化の影響があることを理解することが重要です。親は、単に「勉強しなさい」と命じるのではなく、まず子どもの「大変だ」という気持ちに共感し、寄り添う姿勢から始めるべきです。そして、勉強が単なる記憶作業や受験のためだけでなく、未知の世界を発見し、自身の興味を追求する「楽しい営み」であることを伝え、サポートしていくことが、子どもの内なる学習意欲を引き出す鍵となるでしょう。





