高市発言が加速させる中国の「見えない圧力」:在日企業と邦人への影響

高市早苗首相の台湾有事に関する発言を巡り、中国政府は発言の撤回を強く要求しています。これに伴い、中国国内では日本人アーティストのライブが相次いで中止されるなど、文化交流の遮断が顕在化しています。さらに、日本企業の経済活動に対する見えない圧力も表面化し始めています。中国は今後、どのような形の制裁措置を講じる可能性があるのでしょうか。在中の日本企業や邦人にはどのような影響が及ぶのか、その潜在的なリスクを探ります。

在中邦人拘束のリスク増大:元スパイ容疑者の警鐘

長年、日中交流事業に携わり、2016年に中国でスパイ容疑で約6年間拘束された経験を持つ日中青年交流協会理事長の鈴木英司氏は、今回の事態が「習近平国家主席が相当怒っている」状況であり、在中邦人を狙った拘束が再び起こる可能性を強く憂慮しています。鈴木氏によると、中国の国家安全省は11月19日、高市首相の発言を非難すると同時に、「日本情報機関による中国への浸透・機密窃取のスパイ事件を数多く摘発してきた」と声明で誇示しました。鈴木氏はこれを「中国が邦人をスパイに仕立てるのはサジ加減一つで簡単」であり、「いつでもやるぞ、という意味だ」と解釈しています。

反スパイ法が施行された2014年以降、これまでに鈴木氏を含め17人の邦人が中国で拘束されています。直近では今年7月、アステラス製薬の日本人社員がスパイ活動の罪で懲役3年6か月の実刑判決を受け、控訴せずに確定したことが報じられました。鈴木氏は、この「3年6か月」という刑期が異例の短さであり、罪を認める姿勢を見せたことへの「恩赦」の側面があったと指摘します。しかし、現在の緊迫した情勢下で新たな邦人拘束が発生した場合、同様の「恩赦」が適用される可能性は低いと警鐘を鳴らしています。

中国の高市発言に対する報復措置が日中関係に影を落とす中国の高市発言に対する報復措置が日中関係に影を落とす

国際ルールを回避する「ステルス制裁」の実態

過去の事例を見ても、中国に進出する日本企業やその従業員に対し、直接的な国際法違反と見なされにくい形で圧力をかける方法は多岐にわたると関係者は指摘しています。これらは「ステルス制裁」と呼ばれ、国際的な商慣行ルールを破ったと非難することが難しい巧妙な手段です。

企業活動への許認可権限の締め付け

中国に進出している流通業や製造業の拠点に対し、許認可権限を利用した締め付けが考えられます。例えば、検査を名目に「確認が取れるまで営業を認めない」といった手法です。かつて、在韓米軍への新型兵器配備を認めた韓国に対し、中国は進出している韓国系企業に対し大規模にこの手を使い、多くの企業が大きな打撃を受けました。

貿易・通関手続きの厳格化

現地工場が原料を輸入する際の審査を厳格化し、通関を認める数を減らしたり、意図的に時間をかけたりする懸念も浮上しています。これにより、生産ラインの停止や納期の遅延が発生し、企業の運営に深刻な影響を与える可能性があります。

中国の曖昧なメッセージと今後の予測

高市首相発言が問題化した直後、協議のために訪中した日本外務省幹部の前でポケットに手を突っ込んでいた中国外交部の劉勁松アジア局長が、協議後に遼寧省大連市にある日本系メーカーを視察し、「安心して事業活動をしてほしい」との趣旨のメッセージを伝えたと報じられています。

しかし、鈴木氏は「中国は予告なしに(締め付けを)しますからね。突然、想像できない形でやってきます」と述べ、日本企業がその言葉通りに本当に安心できるかどうかは疑問だとみています。中国は一度に措置を取るのではなく、時間を置いて次々と繰り出してくることが多く、「されたら響くようなことをするのはうまい」と鈴木氏は分析しています。許認可権限を使った稼働停止要求や、輸入の事実上の制限など、これらすべての措置が今後実施される可能性は十分に想定されます。

今回の高市発言に端を発する中国の「見えない圧力」は、在中の日本企業や邦人にとって予測不能なリスクをはらんでいます。文化交流の制限から始まり、邦人拘束のリスク増大、さらには巧妙な「ステルス制裁」による経済活動への締め付けへと拡大する可能性があり、日本側にはより一層の警戒と対策が求められます。

参考文献