近年、日本社会ではクマによる被害が深刻化しており、特に北海道ではヒグマとの遭遇事例が相次いでいます。そんな中、2022年に北海道で発生したヒグマ襲撃事件で、69歳のベテラン猟師が九死に一生を得る壮絶な体験をしました。本記事では、書籍『ドキュメント クマから逃げのびた人々』（三才ブックス）で詳細が語られた、山田文夫さんの信じられないような生還劇とその後の人生を追います。この出来事は、人間と野生動物の共存の難しさと、一瞬で豹変する大自然の脅威を浮き彫りにしています。
手負いのヒグマとの壮絶な格闘
2022年7月、山田文夫さんは同業者のSさんと共にクマ出没の通報を受け、現場へと急行しました。そこで2頭のヒグマを発見し、発砲。1頭は崖下へ転落しましたが、山田さんが確認のため接近したところ、弾を受けながらも生きていた別のヒグマが突如として襲いかかってきました。
仰向けに倒された山田さんは銃を失い、武器を持たない状態でヒグマと素手で格闘せざるを得なくなりました。激しい攻防の中で、山田さんは顎や腹、腕を執拗に噛まれ、下の入れ歯が割れ、口が裂けるほどの大怪我を負いました。Sさんに「撃ってくれ！」と叫んだものの、弾切れで援護は望めません。生死を分ける死闘の最中、山田さんは偶然、右拳がヒグマの口に入ったことで相手をひるませることに成功します。その瞬間、信じられない光景が目に飛び込んできました。ヒグマの横腹、最初に弾が当たった場所から腸が飛び出していたのです。山田さんはとっさに左手を伸ばし、その腸を掴んで力いっぱい引っ張りました。
北海道の豊かな自然を背景にしたヒグマ
襲撃からの生還と復帰への決意
腸を引っ張られたヒグマは、その隙に逃げ去り、山田さんは間一髪で一命を取り留めました。この壮絶な体験により、山田さんは全身に約70針を縫う大怪我を負い、2週間の入院生活を送ることになります。後遺症として、耳の聞こえが悪くなり、口の麻痺、そして指の感覚喪失が残りました。
しかし、驚くべきことに、山田さんは事件からわずか2カ月後には猟師として現場に復帰を果たします。その背景には、「ここで自分が身を引いたら、地域のクマ駆除活動が立ち行かなくなる」という強い使命感がありました。かつてラグビー選手として身長や体重で勝る相手にも果敢にぶつかってきたという山田さんですが、ヒグマとの格闘は「それらとは比較にならない、人生最大のアクシデントだった」と、屈託のない笑顔で振り返っています。
この山田さんの経験は、ヒグマの脅威と、それに対峙する人々の並々ならぬ勇気と責任感を示しています。彼の物語は、現代社会における野生動物との軋轢、そして地域を守るために奮闘する人々の存在を私たちに改めて問いかけるものと言えるでしょう。
参考文献:
文春オンライン, 「クマに嚙まれた猟師が、クマの腹から飛び出た“アレ”を掴んで引っ張った結果…」, Yahoo!ニュースより, 2025年12月2日.
