日本には古くからお湯に浸かる文化があり、また近年ではサウナも人気を集め、多様な健康効果が期待されています。これらの「体を温める」習慣が健康に良い影響を与える主要なメカニズムの一つとして、「深部体温の上昇」が挙げられます。ハーバード大学医学部講師であり、『予防医療の医師が教える 最小の努力で最大の効果を得る食事学』の著者である濱谷陸太氏は、深部体温を上げることがどのような健康効果に結びつくのかを科学的な視点から解説します。
入浴やサウナが心臓病リスクを低減する可能性
体を温める方法の健康効果に関する有名な研究として、フィンランドで行われた大規模な追跡調査があります。この研究では、2315人の中年フィンランド人を20年間にわたり追跡し、サウナの頻度と心臓突然死のリスクとの関連性を調査しました。その結果、週に4〜7回サウナに入る人は、週に1回しか入らない人と比較して、心臓突然死のリスクが6割以上も低いことが示されました。
同様の研究は日本でも報告されています。約3万人の中年日本人を対象とした調査では、ほぼ毎日入浴する人は、週に0〜2回しか入浴しない人と比べて、心臓病のリスクが約3割低いことが明らかになりました。
体を温める方法が健康によいか(写真:zon/PIXTA)
観察研究の限界:因果関係の「致命的な弱点」
これらの研究結果は、入浴やサウナが心臓病予防に寄与する可能性を示唆していますが、「入浴によって心臓病を予防できる」という因果関係を直接的に示すには、ある「致命的な弱点」が存在します。それは、「元気だから入浴している」「病気になると入浴しない」という、逆の因果関係を見ているに過ぎない可能性があるという点です。
つまり、「入浴することによって病気になりにくくなる」のではなく、「入浴できるほど元気な人は、そもそも病気にかかっていない」という当たり前のデータを見ているだけかもしれないのです。
科学的根拠の追求:ランダム化比較試験の重要性
この観察研究の限界を克服し、真の因果関係を明らかにするためには、「ランダムに入浴するかしないかを決めて、その後の健康状態を追跡する」という「ランダム化比較試験(RCT)」と呼ばれるタイプの実験が不可欠です。
濱谷陸太氏らは、過去に実施された「体を温める介入」に関する全てのランダム化比較試験を徹底的に調査しました。その結果、約4000件の論文を精査し、関連する20の研究を詳細に解析したと述べています。
まとめ:体を温める習慣と健康効果の展望
入浴やサウナといった体を温める習慣が、深部体温の上昇を通じて健康に良い影響を与える可能性は、複数の研究から示唆されています。特に心臓病リスクの低減は注目すべき点です。しかし、観察研究には限界があり、真の因果関係を確立するためには、より厳密なランダム化比較試験によるさらなる検証が求められます。濱谷氏らのレビューは、この分野の科学的理解を深める上で重要な一歩となるでしょう。





