塩野七生が語る高市早苗内閣への提言:「女子ワク」を越えた政治の可能性

作家・塩野七生氏が、月刊「文藝春秋」の連載「日本人へ」の冒頭で、高市早苗氏が首相指名される前の段階で、日本の政治に一石を投じる提言を行いました。この寄稿の目的は、自民党が「負けグセ」をつけることを防ぐためだと塩野氏は語ります。「負け」は避けられないこともありますが、それが「クセ」になってしまうと挽回は極めて困難になります。自民党の「負けグセ」は、ひいては日本政治全体の、そして日本全体の「負けグセ」につながりかねないという強い危機感が背景にあります。

「女子ワク」という制約を超えて

塩野氏は、高市早苗氏と直接会ったことはないものの、ある一点で共通認識を持っていると感じています。それは、二人とも「女子ワク」という言葉さえなかった時代から、そのような枠にとらわれずに仕事をしてきたという点です。塩野氏はこの「女子ワク」を「不自由な決まり」と評します。この枠によって登用されると、周囲からは「女の視点」や「女性の自立・地位向上」への取り組みが期待され、かえって制約となるというのです。日本において、組閣時に女性大臣の数を問題視する「ケチな心情の男」が少なくない現状も指摘し、マスコミ対策の最善策は「敵側が予想もしていなかった策」で臨むことだと示唆しています。

高市早苗氏高市早苗氏

高市内閣への具体的提言:全員男性閣僚と有能な副大臣

塩野氏は、高市氏が首相となった場合、その周囲を固める各省庁の大臣を「全員男にしてみてはどうか」という大胆な提言をします。その根拠として、マーガレット・サッチャーが初めて組閣した内閣も、全員男性であったという歴史的事実を挙げます。現在の自民党には、ベテラン、中堅、若手を問わず、有能な人材が豊富に存在しており、彼らを活用しない手はないと強調しています。

一方で、副大臣については「全員女にする」ことを提案。有能な副大臣を使いこなせない大臣は失格であり、大臣の職がいかに楽ではないかを浮き彫りにする狙いがあると説明します。これは、実力主義に基づいた人事と、女性の政治参画に対する新たな視点を提供するものです。

政治家の「使い捨て」と人材活用

かつて小泉純一郎氏が「政治家は使い捨てにされる存在」と語った言葉に対し、塩野氏は日本という国は「政界に限らず、使わないで捨てる国だ」と捉えていました。この現状を打破するためにも、自民党が持つ豊富な人材を適切に登用し、その能力を最大限に引き出すことの重要性を説きます。結果として「捨てられるか生き残るか」は個人の力量にかかるものの、まずはその機会を与えるべきだという強いメッセージが込められています。

塩野七生氏の提言は、単なる女性登用の是非に留まらず、日本の政治が陥りがちな「負けグセ」を打破し、真の実力と戦略的な人材活用によって、より強く、しなやかな国政運営を目指すための警鐘と言えるでしょう。

参考文献

  • 塩野七生「紅一点でありながらダイヤの切っ先にも?」- 『文藝春秋』2025年12月号、文藝春秋PLUS掲載