社会問題化する「犬笛」:立花孝志被告を巡る誹謗中傷と影響力

SNSなどを介して拡散される「犬笛」が、現代社会において深刻な問題となっています。直接的な攻撃の指示がなくとも、受け取った人々を特定の行動へと駆り立てるこの現象は、日本では時に直接的な呼びかけと同義で扱われることもあります。このような「犬笛」を抑止し、社会からなくすためには何が必要なのでしょうか。

「犬笛」が社会問題化する背景

政治団体「NHKから国民を守る党」党首である立花孝志被告(58)は、竹内英明・元兵庫県議(当時50)に対する名誉毀損の罪で起訴されました。これを受け、昨年11月28日にオンライン記者会見が開かれ、竹内元県議の妻は苦しい胸の内を明かしました。妻によると、夫に代わって訴訟を起こしたことで、故人への誹謗中傷や名誉毀損が再び激化しているといいます。遺族である妻や子どもたちにまで被害が及ぶ可能性に、深い心を痛めている状況です。

立花孝志被告と竹内元県議の事例

昨年11月に議員辞職し、今年1月18日に自死された竹内氏のもとには、立花被告のSNS投稿をきっかけに、「竹内が黒幕」「責任をとれ」といった内容の郵便物が届くなど、相次いで誹謗中傷が行われました。これらの誹謗中傷は、今なお家族を含めて続いており、その現実に遺族は胸をふさがれる思いです。

他の民事訴訟と「犬笛」の影響

立花被告を巡っては、昨年の兵庫県知事選で虚偽の内容の演説によって名誉を毀損されたとして、別の県議が立花氏に損害賠償を請求する民事訴訟も進行中です。昨年8月に神戸地裁尼崎支部で開かれた第1回口頭弁論では、この県議が「発信力や影響力のある立花氏の言動が『犬笛』となり、他の方からの誹謗中傷や嫌がらせに影響している可能性が高い」と意見を陳述しました。

送検される立花孝志容疑者送検される立花孝志容疑者

「犬笛」とは何か?その意味と日本の現状

本来、「犬笛」は犬の訓練に使われるもので、人間には聞こえないが犬には聞こえる高周波音を発し、犬に指示を出すための道具です。これが転じて、ごく限られた集団の人々のみが理解できるメッセージを、他の人々には気づかれないように発する言葉を指すようになりました。

例えば、「攻撃しろ」という直接的な呼びかけではなくても、インターネット上のメッセージを読んだ人が自発的に行動を起こしてしまうような発信がこれに該当します。しかし、最近の日本のSNSでは、特定の個人を標的にし、サイバーリンチのような攻撃を扇動する行為を「犬笛」と表現するケースが見られます。メッセージを受け取る側が行動を煽られるという点は共通していますが、日本におけるこの表現は発信する側の意図がより明確であり、もはや「犬笛」というよりも軍隊の「ラッパ」に近いという指摘もあります。立花氏が行ったような、他者の個人情報を晒す行為などがその典型例です。

SNS上の「犬笛」投稿の増加

朝日新聞社メディア研究開発センターのサンプル調査によると、「犬笛」という言葉を含む投稿を引用したリポストは、兵庫県知事選が行われた昨年11月頃から急増しました。その後の3ヶ月間におけるリポスト数は約14万件に上り、これは昨年10月までの1年間の総数に匹敵する回数でした。この期間、知事選に立候補していた立花氏の発信に言及する投稿が特に目立っていたことも分かっています。

結論

「犬笛」という言葉が示すように、意図的であるか否かにかかわらず、特定のメッセージが人々に特定の行動を促し、深刻な誹謗中傷や名誉毀損を引き起こす問題が広がっています。特に影響力のある人物の発言は、時に予測できない形で多くの人々を巻き込み、被害者の家族にまで影響を及ぼすことがあります。このような状況を鑑み、情報発信者はその影響力を深く自覚し、受け手側も情報の真偽を冷静に見極めるリテラシーが、健全な情報社会を築くために不可欠です。

参考文献