未解決事件。この言葉には、底知れぬ魅力が秘められています。犯人が特定されていながらも謎が残る事件、糸口さえ掴めない事件など、その種類は様々。だからこそ、フィクションの題材として人々を惹きつけてやまないのでしょう。今回は、実在の未解決事件をテーマにした映画の中から、『罪の声』(2020)をご紹介します。
京都のテーラーと新聞記者、運命の出会い
物語は、京都でテーラーを営む曽根俊也(星野源)が、亡き父の遺品からカセットテープを発見するところから始まります。何気なく再生したテープには、かつて日本社会を震撼させた企業脅迫事件で使われた音声が録音されていました。そして、その声は幼い頃の自分自身のものだったのです。運命の悪戯か、曽根は昭和最大の未解決事件を追う新聞記者、阿久津英士(小栗旬)と出会います。二人の出会いが、事件の真相解明へとつながっていくのでしょうか。
小栗旬【Getty Images】
グリコ・森永事件:劇場型犯罪の衝撃
『罪の声』で描かれる事件は、関係企業名は変更されているものの、明らかに「グリコ・森永事件」をモデルにしています。1984年、江崎グリコの社長が自宅から誘拐され、10億円の身代金が要求されました。社長は自力で脱出しますが、犯人グループは「グリコ製品に青酸ソーダを入れた」などという脅迫状を送りつけ、実際に毒入りの製品を店頭に置くという凶行に及びました。バブル景気前夜の日本社会は恐怖に包まれました。
“怪人21面相”を名乗る犯人(犯人グループ)は、グリコだけでなく、森永製菓、丸大食品など、複数の巨大企業を脅迫し、大金を要求。マスメディアに脅迫状や犯行声明を送りつける“劇場型犯罪”の手法は、当時連日トップニュースとして報道され、日本中を騒然とさせました。
この事件の特異性は、数多くの証拠が残されているにも関わらず、犯人逮捕に至らなかった点にあります。派手な犯行とは裏腹に、未解決のまま終わった事件は、多くの作家に創作意欲を掻き立てました。
塩田武士の原作小説:新たな真相への挑戦
『罪の声』の原作者、塩田武士もまた、グリコ・森永事件にインスパイアされた作家の一人です。彼は膨大な資料を読み込み、様々な犯人説を検証し、フィクションという形で新たな“真相”を提示しました。映画版では、ドラマ『アンナチュラル』などで知られる脚本家、野木亜紀子がその骨太な物語を巧みに映像化しています。
専門家の見解:社会への影響
著名な犯罪心理学者、藤田教授(仮名)は、「グリコ・森永事件は、日本の犯罪史における転換点となった。劇場型犯罪という手法は、メディアを利用した犯人側の巧妙な戦略であり、社会に大きな不安と混乱をもたらした」と指摘しています。
極上のサスペンスを堪能
『罪の声』は、実在の未解決事件を基にした重厚なサスペンス映画です。グリコ・森永事件の背景を知ることで、より深く物語を楽しむことができるでしょう。ぜひ、この機会にご覧になってみてください。