慰安婦問題をめぐる言論の自由、歴史認識の相違、そして日韓関係の未来。2013年に出版され大きな波紋を呼んだ『帝国の慰安婦』の著者、パク・ユハ名誉教授が、10年におよぶ裁判を経て、その胸の内を明かしました。シカゴに滞在中のパク教授に、オンラインインタビューで詳しく話を聞きました。
慰安婦問題への関心の原点:夏目漱石と日韓関係
パク教授はもともと日本で近代文学、特に夏目漱石を研究していました。民族主義が帝国主義へと変貌する過程を探求する中で、自然と日韓関係にも関心を抱くようになったといいます。1991年頃、日本で集会を開いた慰安婦被害者の方々のために同時通訳を依頼されたことがきっかけで、慰安婦問題に深く関わっていくことになりました。
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『帝国の慰安婦』出版の真意:植民地支配という視点
『帝国の慰安婦』の副題は「植民地支配と記憶の闘争」。パク教授は、慰安婦問題を戦争犯罪として捉えるのではなく、植民地支配という枠組みで捉えるべきだと主張しました。これは、当時の挺身隊問題対策協議会(正義連の前身)の主張とは大きく異なるものでした。戦争犯罪という視点では、賠償請求には有利かもしれませんが、軍の強制連行の有無をめぐる日韓の対立が深まるばかりです。パク教授は、日本も認めている植民地支配という事実を出発点にすることで、日本の責任をより説得力を持って問うことができると考えました。
批判の的となった「同志的関係」表現:植民地支配下における複雑な状況
「同志的関係」という表現は、多くの批判を招きました。しかし、パク教授は、中国人慰安婦やオランダ人慰安婦とは異なり、朝鮮人慰安婦は植民地出身者であり、日本軍には朝鮮人兵士もいたという複雑な状況を説明するために用いたと述べています。植民地支配下における特殊な状況を理解することなしに、単語だけを切り取って批判するのは適切ではないと主張します。
朝鮮人斡旋業者の存在:帝国の構造的問題
朝鮮人斡旋業者の存在も、批判の対象となりました。パク教授は、19世紀後半に九州の貧しい女性たちが斡旋業者によって売春婦として海外に売られていった歴史(からゆきさん)を引き合いに出し、朝鮮人女性たちも同様の構造の中に組み込まれていたと指摘します。斡旋業者が朝鮮人であろうと日本人であろうと、女性たちは帝国の被害者であったという視点が重要だと述べています。
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10年の裁判を経て:韓国社会への希望
10年という長い裁判を経て、パク教授は無罪判決を勝ち取りました。この過程で、韓国社会、特に法曹界に希望を持つようになったと語ります。パク教授の主張は、慰安婦問題だけでなく、学問の自由、言論の自由、そして日韓関係の未来を考える上で重要な示唆を与えてくれるでしょう。
パク・ユハ教授の訴え:問題の本質を理解することの重要性
パク教授は、「強制連行」の有無ばかりに焦点が当てられる現状に警鐘を鳴らします。問題の本質を正しく理解することなしに、真の責任追及はできないと訴えます。そして、植民地支配という歴史的文脈を踏まえることで、より多くの日本人が慰安婦問題を受け入れ、責任を認識する可能性が高まると考えています。