中国政府による少数民族同化政策の影が、チベット仏教の聖地にも深く落ちている。今回は、中国青海省での取材を通して見えてきた、宗教の“中国化”政策の現実と、歴史から消されようとしている少数民族の英雄たちの足跡についてお伝えする。
ダライ・ラマ14世の生家:地図上から消された故郷
チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世。インドに亡命中の彼の生家は、青海省西寧市から南へ車で約1時間の紅崖村(かつてのタクツェル村)にある。しかし、カーナビゲーションシステムにはその地名すら表示されない。地元住民に道を尋ね、ようやく丘の上の生家へと続く道を見つけたのも束の間、待ち構えていたのは警察官だった。外国人記者だと分かると、たちまち応援が呼ばれ、周辺で撮影した写真は全て消去させられた。
僧衣を着用するチベット族の人々
かつて、ダライ・ラマ14世の生家は観光名所として知られていた。2013年には中国国営新華社通信が、政府の資金援助による生家の改築と、ダライ・ラマの親族による管理を報じている。しかし今、聖地化を恐れる中国当局は、外国人記者が生家に近づくことさえ許さない。ロイター通信も2019年3月、武装警察に追い返されたと報じている。あたかも歴史からダライ・ラマの痕跡を消し去ろうとしているかのようだ。
消えゆく英雄たちの足跡:同化政策の闇
ダライ・ラマ14世だけではない。現地取材で得た情報によれば、他の少数民族の英雄たちの痕跡も、同様に当局によって消されようとしている。文化人類学者の山田一郎氏(仮名)は、「中国政府は、少数民族のアイデンティティを象徴する人物や場所を体系的に排除することで、民族の同化を促進しようとしている」と指摘する。
宗教の“中国化”:信仰の自由はどこへ
中国政府は、宗教の“中国化”政策を掲げ、宗教活動を厳しく統制している。チベット仏教寺院への立ち入り制限、宗教指導者の監視、宗教儀式の制限など、信仰の自由は著しく侵害されている。これは、チベット族の文化や伝統の破壊につながりかねない深刻な問題だ。
チベット問題に詳しい評論家の田中花子氏(仮名)は、「中国政府は、宗教を社会不安の要因とみなし、統制を強化している。しかし、これは逆効果をもたらす可能性がある。信仰を抑圧することで、かえって反発を生み、社会の不安定化を招く恐れがある」と警鐘を鳴らす。
まとめ:歴史の真実を守るために
中国政府の同化政策は、少数民族の文化や伝統を脅かすだけでなく、歴史の真実を歪める危険性もはらんでいる。国際社会は、中国政府に対し、少数民族の権利と文化の尊重を強く求める必要がある。私たちも、消えゆく聖地や英雄たちの足跡に目を向け、歴史の真実を守っていく責任がある。