中国のレアアース戦略はなぜ対日戦で失敗したのか:日本の教訓

レアアースは再び世界の注目を集める戦略物資です。中国は長年これを外交ツールとして使用し、その戦略が明確に使われた初の標的は日本でした。2010年、尖閣諸島沖での漁船衝突事件を機に、中国は事実上の対日レアアース輸出停止に踏み切りました。これは日本の主要産業に混乱をもたらしましたが、日本はこの危機を見事に乗り越えました。この記事では、当時の日本の対応とその教訓を振り返ります。

2010年対日輸出停止とその影響

2010年9月、民主党政権下で発生した尖閣諸島沖での漁船衝突事件後、中国はレアアースの対日輸出を実質的に停止しました。ネオジム、ジスプロシウムなど主要元素から中間財まで全般に及び、中国が公式な禁輸措置を発表しなかったため、「事実上の禁輸」として展開。日本側は対応に苦慮しました。

これは自動車産業など日本の基幹産業で広く使う「レアアース磁石」入手を困難化。ネオジム価格は数倍に高騰し、トヨタ、日立、三菱といった主要企業に混乱をもたらしました。

戦略物資としても注目されるレアアースのイメージ戦略物資としても注目されるレアアースのイメージ

日本の対応策:供給多角化・技術開発・備蓄

日本政府・企業は、供給源を多角化するため、ベトナム、インド、オーストラリア(特にライナス社)、アメリカなど、中国以外の代替供給国を探り、新たな調達ルートを確保しました。

国内では技術開発を強化。既存製品からのレアアース回収技術(いわゆる「都市鉱山」)や、高性能フェライト磁石など代替素材の開発を推進。トヨタ自動車がジスプロシウムを使わない磁石開発に成功し、世界的注目を集めました。

これらの経験から、レアアース国家備蓄制度も創設。官民で戦略的備蓄を行い、将来的な供給リスクへの備えを強化。戦略物資の特定の国への過度な依存の危険性認識が高まりました。

WTO提訴と中国の「レアアース外交」失敗

日本はアメリカ、EUと共同で2014年、中国のレアアース輸出規制を世界貿易機関(WTO)に提訴しました。WTOは中国の制限が不当と判断し、中国は輸出枠制度や輸出関税の撤廃を余儀なくされました。

これは、中国がレアアースを政治的な外交手段として用いる「レアアース外交」が国際的に認められず失敗したことを示します。当時の日本の迅速かつ周到な対応、国際連携、そして国内精製技術の保持が成功の鍵でした。

レアアースとレアアース磁石の基本

レアアースとは、スカンジウムやイットリウムを含む17種類の希土類元素の総称です。一方、レアアース磁石は、これらの元素の一部、特にネオジムやサマリウムなどを使用して作られる高性能な永久磁石を指します。

中国が戦略的に扱う元素には、高性能磁石に不可欠なネオジム(Nd)、耐熱性を高めるジスプロシウム(Dy)、磁石補強のテルビウム(Tb)、高温磁石のサマリウム(Sm)、超伝導等のイットリウム(Y)など。特にネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウム、サマリウムは高性能永久磁石原料として重要。「レアアース磁石」はこれら元素や磁石自体を指す場合があります。

2010年の中国レアアース規制は日本の産業に大きな試練を与えましたが、日本は供給多角化、国内技術開発、国家備蓄、国際連携といった多角的なアプローチでこの危機を見事に乗り越えました。この経験は、戦略物資の安定供給の重要性、そして特定の国への過度な依存がもたらすリスクを再認識させる貴重な教訓です。この時の日本の対応は、現代の経済安全保障上、引き続き学ぶべき事例と言えます。

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