仕事の成果は「運」と「体調」で決まる? 田中慎弥氏に聞く、無理なく続ける秘訣

小説家・田中慎弥氏は、仕事の成果は単に「努力」だけで決まるのではなく、「運」も大きく影響すると独自の視点を持つ。さらに、長期的に成果を出し続けるためには、意外なほど「体調管理」が不可欠だと語る。直木賞作家である氏が実践する、「逃げるが勝ち」の思考に基づいた無理のない働き方について紹介する。

50歳を超えて見えた「倒れる一歩手前」の危険性

田中氏は現在50代となり、以前に比べて体力的な限界を感じるようになったという。特に執筆中は空腹時に集中力が高まる傾向にあるが、無理を続けると意識が遠のくような危険な状態に陥ることもあるため、注意が必要になったと語る。若くして他界した父親や、幼い頃から体調を気遣ってくれた母親の存在も、自身の健康への意識を高める要因となっている。

50代となった現在も執筆活動を続ける小説家・田中慎弥氏50代となった現在も執筆活動を続ける小説家・田中慎弥氏

かつては徹夜も辞さなかったが、現在は身体への負担を考慮し、徹夜は避けている。その代わりに、日中にすべての仕事を終える昼型スタイルへと移行。食事にも気を配り、肉、魚、野菜、炭水化物をバランスよく摂取するなど、折り目正しい生活を送ることを心がけている。身体に鞭打つのではなく、「倒れる四、五歩手前で止める」意識で継続しているという。

仕事を続ける上で不可欠な「基礎体力」とは

田中氏は、執筆活動を続ける上で「体力」が極めて重要だと強調する。しかし、ここで言う体力は、重いものを持ち上げたり、マラソンを完走するような運動能力ではない。あくまで「毎日きちんと仕事ができて、疲れは出るけれども、次の日にはまた仕事に向かえる」、つまり倒れずに継続できる「基礎体力」を指す。

この基礎体力を維持するために、日常生活の中で身体を動かすことを推奨しており、軽いストレッチや1時間程度の散歩をほぼ毎日欠かさず行っているという。体調を整えることは、充実した仕事をこなす上で不可欠であり、人間の性格や精神状態が内臓、特に腸の状態に影響されるという説にも触れ、「確かにそうかもしれない」と述べている。逆に言えば、体力が続かなくなるということは、その仕事が自分に向いていない可能性を示すサインとも捉えられる。

田中慎弥氏の経験から見えてくるのは、長期的な仕事の成果は、根性や不眠不休の努力だけでなく、自身の体調を深く理解し、適切に管理することによって支えられているという現実だ。基礎体力を維持し、健康的な生活を送ることは、単に身体のためだけでなく、思考力や集中力、さらには仕事に対する向き合い方そのものに影響を与える。成果が出ない時、あるいは仕事を続けるのが辛くなった時、それを単に努力不足と捉えるのではなく、「運」や「体調」といった別の側面から見つめ直すこと、そして何よりも自身の健康を最優先に考えることの重要性を、氏は自身の生き方を通して示唆している。

参考文献

  • 『孤独に生きよ 逃げるが勝ちの思考』(徳間書店)
  • Yahoo!ニュース (オリジナル掲載: PRESIDENT Online)