認知症中期の入浴拒否や徘徊、専門家が教える「声かけ」の極意

認知症が進行し中期になると、入浴を嫌がる、夜中に歩き回る(徘徊)、排泄の失敗が続くなど、介護する側にとって対応が難しい行動が現れることがあります。こうした行動に対し、どのように声をかけ、どう対応するかが非常に重要です。認知症ケアの第一人者である川畑智氏は、著書の中で、本人も介護者も楽になる具体的な声かけや対応方法を伝えています。この記事では、特に「入浴拒否」と「徘徊」の背景にある理由と、取るべき対応について解説します。

認知症による入浴拒否の背景にある理由と対応

認知症の人によく見られる行動の一つに「入浴拒否」があります。入浴を嫌がる理由は多岐にわたります。認知症の初期や疑いがある頃から面倒くさがったり、記憶障害によって「もうお風呂に入った」と思い込んでしまい、「さっき入ったからいい」と拒否したりすることがあります。

さらに認知症中期になると、以前は難なくできていた入浴時の動作や、シャワーとカランの切り替え、温度調節といったボタンやツマミの操作が困難になります。これは、まるで航空機のコックピットのように見慣れない操作盤を前にしたような感覚に陥るためです。しかし、こうした困惑をすぐに家族や介護者に伝えることは難しいものです。川畑氏の体験談では、「入浴時はずっと水シャワーで洗っている」という事実にしばらく気づかなかったケースがあります。「水しか出ないから」と本人は言うものの、実際はお湯が出るにも関わらず、温度調節の操作方法が分からなかったことを、辻褄合わせの理由として話していただけでした。

また、体をうまく洗えなくなったり、脱衣所で体を拭く動作がスムーズにできなくなったりし始める時期でもあります。これらの「できないこと」を家族や介護者に知られたくないという思いから、入浴を拒否するようになるケースも多く見られます。その他にも、入浴の出入り口の段差が怖い、湯舟の深さが分からず「吸い込まれて落ちていきそう」といった恐怖感を理由に入浴を避ける人もいます。

このような状況で、「なんで入らないの!ダメでしょ」と叱ったり、「いい加減、お風呂に入ってちょうだい!」と入浴を無理強いしたりすることは、かえって入浴拒否をエスカレートさせてしまう可能性があります。

心理的な理由で入浴したがらない場合は、「明日、病院で検査があるから、きれいにしておこうか」といった声かけが効果的なことがあります。「汚れていると先生に申し訳ない」「迷惑をかけたくない」という気持ちに寄り添うことで、入浴する気分になってくれる人もいます。また、「頼まれていたお風呂が沸いたよ!」「お母さん、今日は一番風呂をどうぞ」のように、ポジティブな言葉を使って促すことも有効です。

認知症の方の介護をサポートするイメージ画像認知症の方の介護をサポートするイメージ画像

入浴動作や操作の困難さから入浴を拒んでいる場合は、入浴時の具体的なサポートが不可欠です。その際、「一緒に入りたいから」「背中を流してあげたいから」のように、あくまで介護する側が「自分がそうしたいから」という理由で一緒に入浴することを提案すると、誘いに乗ってくれやすくなることがあります。本人の「できない」を責めるのではなく、自然な形でサポートを提供することが、入浴拒否を和らげる鍵となります。

認知症の「徘徊」に見られる過去の習慣と対応

認知症になると、昼夜逆転や睡眠障害が起こりやすく、夜中に活動を開始したり、早朝に起き出したりと、生活リズムが乱れることが頻繁に起こります。これにより本人の心身に負担がかかるだけでなく、対応する周囲のストレスも増大しがちです。

昼夜逆転が起こるのは、現実の時間と体内時計の感覚がずれてしまい、日中と夜間の区別がつきにくくなるためです。しかし、その際に本人が取る行動には、過去の仕事や生活習慣に基づく何らかの理由や目的があることが多いというのが、専門家である川畑氏の経験から言えることです。

例えば、深夜に突然「仕事に行く」と言って身支度を始める人もいます。このような時、「まだ夜でしょ!寝なさい!」と怒っても、時間感覚がずれている本人には理解できません。「明るくなってからにしよう」と説得しようとしても、多くの場合効果はありません。本人の行動の背景にある、過去の習慣やその時の思いを理解しようとすることが、対応の第一歩となります。

まとめ

認知症の方の「入浴拒否」や「徘徊」といった行動は、記憶の障害、身体的な困難、時間感覚のずれ、過去の習慣など、様々な複雑な理由が絡み合って生じます。これらの行動に対して、一方的に否定したり、感情的に対応したり、無理強いしたりすることは、本人をさらに混乱させ、介護を難しくする悪循環を生みかねません。

重要なのは、行動の表面だけを見るのではなく、その行動の背景にある本人の気持ちや、何に困っているのかという理由を理解しようと努めることです。そして、本人の尊厳を守りつつ、困りごとに対する具体的なサポートを提供したり、ポジティブで安心感を与えるような「声かけ」をしたりすることで、本人も介護者も負担が軽減される対応が可能になります。認知症ケアにおいては、本人に寄り添い、理由を理解し、適切なコミュニケーションとサポートを行う視点が不可欠です。

参考文献

  • 川畑智 著『認知症の人がスッと落ち着く言葉がけ〇×ノート』(SBクリエイティブ)