今年に入り、韓国の住宅価格は著しい上昇を見せ、不動産市場に懸念の兆しが強まっています。2年前までは下落傾向にあった住宅価格ですが、昨年からは首都圏を中心に6%以上の上昇を記録。特にソウルの住宅価格は過去5年間で約30%以上も高騰し、アメリカのニューヨーク(60%)に次いで世界で2番目に高い上昇率となっています。この状況に対し、新たな政策が打ち出されましたが、その影響は多岐にわたると予測されています。
李在明政権の新たな不動産規制とその影響
2024年6月に発足した李在明政権は、6月27日、住宅担保融資を厳しく規制する不動産対策を発表しました。主な内容は以下の通りです。
- 融資上限の制限: 首都圏で住宅を購入する際の住宅担保融資は最大6億ウォンに制限されます。
- 転入義務: 融資を受けた場合、6カ月以内の転入が義務付けられます。
- 多住宅者への規制強化: 既に住宅を所有する者が2軒目以降を購入する場合、担保価値に対する貸出比率(LTV)は0%となります。
- 買い替え規制: 住宅を買い替える際には、従前の住宅を6カ月以内に売却処分しなければなりません。
これらの措置は、事実上、賃貸を目的とした住宅購入への担保融資を禁止するものです。
現在、ソウルの新築マンションの平均相場は約14億6000万ウォン(約1億5,600万円)です。これまでのLTV70%の制度では、約4億4000万ウォン(約4,700万円)の自己資金で済みましたが、今回の規制により、必要な自己資金は約8億6000万ウォン(約9,200万円)以上へと倍増します。高級マンションが立ち並ぶ江南(カンナム)地域では20億ウォンを超える物件も珍しくなく、14億ウォン以上の自己資金が必要となるケースも出てきます。
規制の背景にある「ヨンクル族」の阻止
住宅担保融資を規制する目的は、「ヨンクル族」と呼ばれる層の動きを阻止することにあります。「ヨンクル」は「霊魂(ヨン)まで引き出す(クル)」という意味で、ヨンクル族とは「住宅価格は上がり続ける」という神話を信じ、あらゆる手段で資金を調達し、不動産投資を行う人々を指します。
文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足した2017年、ソウルの中規模マンションの平均価格は8億326万ウォンでしたが、政権末期の2022年には16億1059万ウォンへと高騰しました。現在の李在明政権は、このヨンクル族が不動産価格を不当につり上げていると見ており、融資を制限することで不動産価格の上昇を抑制したい考えです。
ここで韓国特有の不動産賃貸方式「チョンセ」について説明が必要です。チョンセとは、賃借人が売買相場の50〜80%を保証金として大家に預け、契約期間中の家賃は発生しないシステムです。ヨンクル族はこれを投資手法として利用しました。例えば、1億ウォンの中古マンションを自己資金3000万ウォンで購入し、不足する7000万ウォンを銀行から借り入れると同時に、チョンセ住宅として入居者を募集。入居者が払い込んだ保証金で借入金を返済するという手法です。契約満了時には、新たな入居者からの保証金や住宅を担保にした融資で、以前の保証金を返還します。彼らがこのような利益の少ない自転車操業を繰り返すのは、投資した不動産の値上がりを待つためです。
広がる金融規制と指摘される問題点
金融当局は7月2日、さらに「年間所得内の信用融資にカードローンを含める」方針を発表しました。これは、カードローンが住宅購入の自己資金不足を補うために利用されるのを防ぐことが目的です。
しかし、今回の住宅融資とカードローンの規制に対しては、早くも複数の問題点が指摘されており、不動産価格の抑制にはつながらず、かえってさらなる高騰を招く可能性も示唆されています。
- 住宅購入断念者の増加: 必要な自己資金の大幅な増大により、住宅購入を断念する人々が増える可能性があります。
- 買い替え需要への影響: 住宅担保融資を受ける際の6カ月以内の転入義務、および買い替え時の既存住宅の6カ月以内売却処分義務は、人気の新築マンション抽選に当選しても、売却の見込みが立たないと融資を受けられず、買い替えを断念せざるを得ない状況を生み出します。
- 外国人による不動産買い占め: 韓国人は厳しく資金調達を監視される一方で、外国人の資金の出所や海外所有不動産の把握は困難であり、実効性に限界があるとの懸念もあります。
- チョンセ保証金返還問題: 賃貸借契約の満了に伴う保証金の返還を担保融資に頼っていたヨンクル族は、融資が受けられなくなり保証金を返還できなくなる可能性があります。
- 一般市民・小規模事業者への影響: カードローン規制は、住宅購入だけでなく、病気や失業、災害など一時的な出費を補う目的や、小規模事業者の緊急支払いに利用されているケースも多く、これらが利用できなくなることで打撃を受ける可能性があります。
- 住宅供給の停滞: 融資規制が住宅需要の減少を招くと予測され、不動産開発にブレーキがかかり、住宅供給が停滞する可能性があります。需要に対して供給が追いつかない状況は、既存住宅の値上がりを招きかねません。
当局は今回の住宅融資規制が、年間所得1億ウォン以上で融資額上位10%の富裕層を対象としていると説明しています。しかし、住宅購入者が富裕層に限定される状況と、供給停滞が重なれば、希少価値が高まり住宅価格のさらなる上昇は避けられないという声も上がっています。
過去の不動産政策の失敗と李政権の行方
政府が住宅担保融資規制を発表した直後の1週間、住宅ローンの1日当たり申請額は3500億ウォン台にとどまり、直前の7400億ウォンから半減しました。担保価値や支払い能力とは関係のない融資規制は前例がなく、当局が期待する価格抑制につながるか、あるいはさらなる高騰を招くのか、予断を許さない状況です。
文在寅政権は27回にわたる不動産対策を発表しましたが、そのほとんどが失敗に終わり、主要支持層である会社員からマイホームの夢を奪ったと批判されました。日韓関係の悪化を招いたとして批判された文元大統領ですが、韓国国内での人気失墜の主因は不動産政策の失敗だったと言われています。一方、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は規制緩和と供給増を掲げ、需給バランスを整えることで不動産価格の上昇を抑制する方針でしたが、これも成功には至っていません。
再び規制強化に舵を切った李在明政権の今回の不動産政策は、政権の命運を左右する可能性も秘めており、今後の展開が注目されます。