ドナルド・トランプ前米国大統領は、欧州連合(EU)に対して時に威嚇的なレベルで圧力をかけ、その結果、EUが当初構想していた対米報復パッケージの規模は、260億ユーロから210億ユーロへと縮小されました。これはトランプ氏の強硬な姿勢が効果を発揮した結果と見られています。特に、米国産バーボンウイスキーを報復リストから除外しなければ、欧州産ウイスキーにも制裁を課すと警告したことで、フランス、アイルランド、イタリアがこれに応じたと報じられています。EU当局者の中には、「加盟国が望むものをすべてリストから除外していれば、残る品目はわずか90億ユーロ規模だっただろう」と推測する声もあります。
トランプ戦略の成果とEUの苦渋の選択
EUは、30%の関税を回避し、「最悪」を避け「次悪」を選択したと説明していますが、これは現状維持を繕うに過ぎないとの評価があります。EUは、15%の関税率に既存の平均関税率4.5%が含まれるため、上昇率は大きくないとしていましたが、実際に輸入額を基準とした加重平均関税率は1.6%であったため、対米輸出には相当な損害が避けられないとの指摘もされています。交渉を終えたトランプ氏の表情が明るかったことも、この見方を裏付けています。米メディアのポリティコは、トランプ氏が「今回の合意は多くの統合と友情をもたらすだろう。とてもうまくいった」と語ったと伝えています。
多国間主義への挑戦とEUの弱点
4億5000万人の消費者を抱える単一市場として、EUの経済的影響力を考慮すれば、米国にとっては交渉の難易度が高いのは当然です。ポリティコは、「トランプ氏のやり方は、第二次世界大戦後に構築された多国間貿易体制を崩してしまう『撤退』のようだった」と比喩しています。これは、米国中心主義を掲げた二国間主義方式の圧力によって、EUの弱点に食い込んだという意味合いがあるでしょう。フィナンシャル・タイムズ紙はさらに踏み込み、「EUはトランプという機関車にひかれた。トランプ大統領は、われわれの苦痛許容値がどこまでかを正確に計算した」というEU内の自嘲混じりの嘆きを紹介しています。
EU、対米交渉で「交渉の先輩」日本に助言求める
EUは、対米交渉における劣勢を意識し、日本に助言を求めていました。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、EUの交渉代表であるマロシュ・シェフチョビッチ欧州委員が、トランプ氏との会談でどのような状況を予想すべきかを把握するため、日本の当局者に助言を求めたと報じました。これは、「交渉の先輩」である日本の具体的な前例を参考にする必要があったためです。その結果、シェフチョビッチ委員は、トランプ氏と日本の会談が形式的な水準を超え、合意に向けた詳細な事項にまで踏み込んだことを知ったとされます。これに基づき、EU代表団は、トランプ氏にどのような交渉カードが効果的かを議論するため、グラスゴーのホテルに集まりました。対米投資額の規模や、米国製品の輸入をてこに関税を引き下げるというEUの合意方式が日本と似ていたのは、こうした背景があったためです。
EUがトランプ政権との貿易交渉で示した譲歩は、強硬な二国間主義外交の成果と見られます。同時に、EUが日本の経験から学び、自らの交渉戦略を調整した事実は、国際政治経済における相互学習の重要性を示唆しています。
参考文献:
- ウォール・ストリート・ジャーナル (Wall Street Journal)
- フィナンシャル・タイムズ (Financial Times)
- ポリティコ (Politico)