小中学校における不登校児童生徒の数は、11年連続で増加し、令和5年度には約34万人と過去最多を更新しました(文部科学省「令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)。不登校に至る経緯は子ども一人ひとり異なりますが、中には発達特性が背景にあるケースも少なくありません。その場合、本人の抱える困難が周囲に理解されにくく、不登校が長期化する傾向が見られます。本記事では、この発達障害と不登校の関係性について、専門家の見解を基に深掘りしていきます。
発達障害とは何か?その特性と多様性
発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達における特性により、日常生活や社会生活で困難が生じる状態を指します。主な種類としては、「自閉スペクトラム症(ASD)」「注意欠如多動症(ADHD)」「学習障害(LD)」などが挙げられます。これらの発達特性は重複したり、その度合いが強弱に分かれたりするため、必ずしもすべての人に「障害」としての支障が生じるわけではありません。もし、個々の発達特性が周囲によく理解され、適切に受け止められる環境が整っていれば、それらの特性が不登校の直接的な要因となることはありません。
発達障害は不登校の「ハイリスク要因」である
発達障害は、不登校の直接的な原因、あるいは唯一の原因ではありません。発達障害があるからといって、必ず不登校になるわけではないのです。しかし、発達障害は不登校のリスクを著しく高める要因となり得ます。発達特性を持つ子どもたちは、その特性が周囲に理解されていない環境では、様々な困難や失敗を経験しやすくなります。これにより、学校という場への参加意欲を失い、次第に不登校へと繋がる可能性があるのです。学校環境がこうした特性を十分に理解し、適切に対応できない場合、不登校のリスクはさらに高まります。つまり、学校環境の質が不登校のリスクを左右すると言えるでしょう。
不登校児童生徒の増加と発達特性、適切な学校環境の重要性
児童精神科医が見る不登校と発達障害の統計的実態
「発達障害の子どもは不登校になりやすいのか?」「不登校の子どもには発達障害の子が多いのか?」という疑問は、しばしば聞かれますが、これらの問いに正確な統計的根拠を持って答えることは難しいのが現状です。児童精神科で不登校の相談を受けるケースでは、発達障害が疑われる子どもが多く、結果として発達障害の診断に至ることは少なくありません。しかし、これは病院に相談に訪れる特定の層に限定された話であり、病院を訪れない多くの子どもたちを含めた全体的な調査が行われていないため、不登校の子ども全体の中で発達障害を持つ子の割合がどの程度なのかは明らかではありません。この問いに明確に答えるためには、より大規模で包括的な統計調査が不可欠です。
理解と支援が不登校問題解決の鍵
不登校児童生徒数の増加という社会的な課題の背景には、発達特性が複雑に絡み合っているケースが多数存在します。発達障害そのものが不登校の原因ではないものの、個々の発達特性への理解が不足し、適切なサポート体制が整わない学校環境が、不登校へのハイリスク要因となることは明白です。この問題の解決には、個々の子どもの特性を深く理解し、それに応じた柔軟な教育的配慮や心理的支援を提供できる学校環境の整備が不可欠と言えるでしょう。
参考資料
- 文部科学省「令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」
- 本田秀夫著『発達障害・「グレーゾーン」の子の不登校大全』