米露核威嚇応酬がエスカレート:トランプ氏「原潜が射程に」と警告、メドベージェフ氏とSNSで激論

米国とロシアの間で、ソーシャルメディア(SNS)上での対立が核兵器を用いた威嚇にまでエスカレートしています。ドナルド・トランプ前米大統領は「米国の原子力潜水艦2隻がロシアへの射程に入っている」と発言し、緊張を一層高めています。この危険な言葉の応酬は、世界の安全保障に新たな懸念を投げかけています。

核発言のエスカレート:メドベージェフ氏の「最後通告」から

ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、核に関する発言は「誰もが非常に、非常に慎重であるべきだ」と述べ、トランプ前大統領が8月1日にSNSに投稿した発言に対し苦言を呈しました。トランプ氏は、「挑発的な声明を受けて、原子力潜水艦2隻を適切な海域に展開するよう指示した。原子力潜水艦はすでに射程に入っている。そうならなければならない」と投稿し、ロシア近海とみられる場所への原子力潜水艦配備を示唆しました。

この一連の発言の発端は、ロシアに対してウクライナとの停戦合意を迫るトランプ氏に反発した、ドミトリー・メドベージェフ前ロシア大統領が7月29日にSNSで投稿した内容です。「トランプはロシアに対して最後通告ゲームをしている。新たな最後通告は脅威であり、戦争への一歩となる。『スリーピー・ジョー(バイデン)』の轍(てつ)を踏むな」と、トランプ氏が毛嫌いするジョー・バイデン前大統領の名前を挙げて挑発しました。

トランプ氏とメドベージェフ氏のSNS上の応酬

メドベージェフ氏の挑発に対し、トランプ氏はただちに反応し、両者のやり取りは危険なエスカレーションを見せました。

トランプ前大統領は7月31日のSNS投稿で、「言葉に気をつけるように伝えて下さい。非常に危険な領域に踏み込んでいます」と警告しました。これに対し、メドベージェフ氏は同日のSNS投稿で、ロシアの「デッドハンド」(自動核報復システム)に言及し、「デッドハンドがどれほど危険かを考えればよい」と応じました。

8月1日、トランプ前大統領は「(原子力潜水艦の展開は)国民の安全を守るという観点から行ったことです。ロシアの前大統領から脅迫されました。我々は国民を守るつもりです」と述べ、自身の行動を正当化しました。

米露間の緊迫した核の応酬を示すイメージ米露間の緊迫した核の応酬を示すイメージ

メドベージェフ前大統領の現在の役割と影響力

2008年に大統領の任期を満了したウラジーミル・プーチン氏の後任として、ロシア大統領に就任したメドベージェフ氏。4年後の2012年にプーチン氏が大統領に返り咲くと、メドベージェフ氏は2020年まで首相を務め、現在はロシア国家安全保障会議副議長を務めています。

慶應義塾大学の鶴岡路人教授は、メドベージェフ氏の現在の役割について解説しています。「(プーチン氏は)自分に歯向かわない人を代わりの大統領にした。(メドベージェフ氏と)本当に蜜月なら、もう少し要職につける。今は国家安全保障会議副議長。実質的な権限は、ほとんどないと言われています。ただ、一度ではあってもロシアの大統領を務めた人物ですから、やはり本人としても発信を続けたいという思いがあるのでしょう」と述べ、メドベージェフ氏が過去の大統領としての立場から発信を続けている現状を分析しました。

結論

今回の米露間のSNS上での核を巡る言葉の応酬は、国際社会における政治指導者の発言の重みと、その一言一句がもたらしうる危険性を改めて浮き彫りにしました。特に核兵器が絡む発言は、偶発的な衝突や誤解を招く可能性があり、極めて慎重であるべきです。国際社会は、対話と抑制を通じて緊張緩和に努めることが、今後の安全保障において喫緊の課題となっています。

参考文献