日本で暮らす在留外国人は過去最高の376.9万人(2024年末現在)を記録し、その数は増え続けています。しかし、多様な背景を持つ「外国人の隣人」に対し、未だに誤解や不安を抱く声も少なくありません。本稿では、母国を離れて日本で生活する外国人が直面する現実の一端として、アニメ業界で働くミャンマー出身のピョピョ・ヤダナさんの体験に迫ります。彼女が明かすのは、日本の「ブラック企業」と呼ばれる慣行が蔓延するアニメ業界の厳しい労働実態です。
アニメ制作現場の過酷な勤務体系:週6日・深夜までの日常
ピョピョ・ヤダナさんは、流暢な日本語で日本の労働環境について語り始めました。彼女が最初に入社したアニメ制作会社は、まさに「ブラック企業」の典型だったと言います。「夜の11時50分くらいに帰ろうとしたら、ほかのスタッフさんから『お前もう帰んの!? 甘いよ、ほかのスタジオはみんな徹夜してるよ』と言われたこともありますね」と苦笑いしながら振り返ります。
この会社では、週6日勤務で深夜まで仕事が続くのが常態化していました。たった4人の社員で、同時に5本のアニメの背景画を描き続けるという膨大な業務量をこなしていたのです。アニメ1話には背景画が約300枚必要とされ、それが5本並行して進行するため、毎週およそ1500枚もの背景画を生産していました。ピョピョさん自身も毎日30枚の背景画を描き続けていたと明かします。これは他の会社が1日3枚程度であることと比較すると、いかに過酷な作業量であったかが浮き彫りになります。
ミャンマー人アニメーター、ピョピョ・ヤダナさんが手掛けたアニメ背景画。緻密な描写が、アニメ業界の過酷な制作環境を物語る。
パワハラと外国人への厳しい対応:精神的な負担
物理的な過酷さに加え、ピョピョさんは精神的な負担も抱えていました。社長による日常的な叱責です。ピョピョさんが描いた背景画は社長のチェックを受けますが、その際に「なんでこういう描き方をするのか」「ちゃんと考えて描けよ」といった内容で、2時間もの説教をされることが頻繁にあったと言います。描き直して見せても、また怒られるといったハラスメントが繰り返されました。
さらに、彼女は「外国人だから厳しく当たられる」と感じることもあったそうです。言葉の壁や文化の違いだけでなく、国籍を理由とした不当な扱いに直面する可能性は、日本で働く多くの外国人労働者が抱える課題の一つです。ピョピョさんの経験は、日本の特定産業における労働問題と、在留外国人が直面する複雑な現実に警鐘を鳴らしています。
ピョピョさんの話は、アニメ業界が抱える慢性的な長時間労働やハラスメントの問題、そして外国人材がそのような環境でいかに奮闘しているかを示しています。彼女の経験は、日本社会が多様な背景を持つ人々を受け入れ、全ての労働者にとって健全で公平な職場環境を築くことの重要性を改めて浮き彫りにするものです。
参考文献