米国のドナルド・トランプ前大統領の任期中、各国は巨額を投じてロビイストを雇い、通商交渉における関税問題を回避しようと試みました。しかし、海外メディアの分析によると、その多くは期待通りの成果を上げられませんでした。これは、従来の実務者レベルでのロビー活動よりも、首脳同士の直接的な意思疎通を重視する「トップダウン型」のアプローチが、トランプ政権下ではより効果的だったことを示唆しています。米政治専門メディア「ポリティコ」は、少なくとも30カ国が数千万ドルを費やしてトランプ氏とつながりのあるロビイストを雇ったものの、厳しい関税を避ける上ではほとんど影響がなかったと報じています。トランプ氏が自身の判断や人間関係を優先して取引に臨んだことが、この状況を生み出しました。
従来のロビー活動が機能しなかった理由
トランプ政権下では、政策決定プロセスが従来の慣習とは大きく異なりました。通常、ロビイストは官僚や議会関係者と接触し、彼らを通じて大統領の政策に影響を及ぼすことを目指します。しかし、トランプ大統領は、官僚の意見よりも自身の直感や個人的な関係を重視する傾向がありました。このため、実務レベルでの働きかけは、大統領の最終的な意思決定に結びつきにくいという問題が生じました。各国が伝統的なロビー活動に注力する一方で、トランプ氏の「気まぐれ」とも評されるトップダウン型の政策決定スタイルに対応しきれなかったのです。
トップダウン型交渉の成功例:メキシコ
対照的な結果を示した事例として、メキシコとカナダのケースが挙げられます。メキシコはロビイストの雇用を最小限に抑え、代わりにクラウディア・シェインバウム大統領が直接トランプ大統領と意思疎通を図る戦略を採用しました。ポリティコによると、シェインバウム氏はトランプ氏が関税を発表した後の今年2月と3月に繰り返し電話で対話を行い、関税措置の猶予を立て続けに勝ち取っています。
ドナルド・トランプ元米大統領とクラウディア・シェインバウム・メキシコ大統領が握手する様子。米墨間の通商交渉における首脳間の直接対話を象徴。
その結果、メキシコは当初30%が課される予定だった関税を25%の水準で維持することに成功しました。さらに、トランプ氏は7月31日にシェインバウム氏と再び電話会談を行った後、この措置が90日間維持されると発表しました。ポリティコはこの成果を、「シェインバウム氏が、トランプ氏との揺るぎない関係を築くために数カ月間努力した結果」と評価しています。
ロビー活動の限界を示した事例:カナダとインド
一方、カナダは州政府が多数のロビイストを起用したにもかかわらず、35%もの高率関税を避けられませんでした。カナダの10州のうち5州がロビー会社を雇い、米国の官僚や議会関係者に精力的に接触しましたが、トランプ氏の決定を覆すには至りませんでした。むしろ、ホワイトハウスは7月に、「フェンタニルやその他違法薬物の流入阻止に協力せず、こうした脅威に対処する米大統領の措置に報復した」として、カナダに追加のフェンタニル関税を課しています。
インドもまた、トランプ氏に疎まれ、不利な関税結果に直面した事例です。インドはトランプ氏発の関税戦争で25%の高率関税を通告されただけでなく、米国の要求事項であるロシア産原油の輸入中断措置を受け入れなかったため、さらに25%の追加関税を課され、合計50%の「関税爆弾」を受けることになりました。ポリティコは、ナレンドラ・モディ首相がトランプ氏と直接意思疎通を試みなかったことも、この高関税に影響したと分析しています。強い指導者像を追求するモディ氏が、トランプ氏から叱責を受ける状況を懸念して電話を避けた結果、逆にトランプ氏の怒りを買ったという解釈です。このため、インド政府が今年4月にトランプ氏の長年の側近である元ホワイトハウス上級顧問のジェイソン・ミラー氏を年間180万ドル(約2億6600万円)で起用した努力も、水泡に帰した形となりました。
韓国と日本のケース:ロビー以上の要素
ロビイストを雇った国々の中で、韓国と日本は比較的有利な結果を得たとされています。ポリティコは、両国が15%程度の関税に収まった事実を伝えています。ただし、韓国・日本を含む多数の国と契約を結んだ大手ロビー会社「マーキュリー・パブリック・アフェアーズ」が、エクアドルやリビアなど一部の国に対しては満足のいく成果を上げられなかった点も指摘されています。このことから、韓国と日本の場合は、単なるロビー活動以上に、両国が対米投資や自国の貿易障壁緩和など、トランプ氏が望む交渉案を提示したことが奏功した可能性が高いと見られています。
結論
トランプ政権下の通商交渉は、従来のロビー活動の有効性に疑問を投げかける結果となりました。首脳同士の直接的な意思疎通、すなわち「トップダウン型」のアプローチが、予測不能なトランプ氏の政策決定に対してより効果的であることが浮き彫りになりました。各国の政府は、大統領個人の判断や人間関係が政策に与える影響を過小評価すべきではないという教訓を得たと言えるでしょう。
しかしながら、関税実施後も例外条項や抜け道を探る動きによって、米国のロビー業界は依然として好況であると報じられています。共和党系のあるロビイストは、「トランプ大統領が二国間の通商関係を再定義しようとしているという視点で臨み、その条件下で彼と交渉する方が良かった」と述べており、今後の国際交渉におけるアプローチの多様化が示唆されています。