近年、闇バイトを介して社会問題となっている「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」が、日本の伝統的な暴力団、いわゆるヤクザと手を組み、その活動を激化させています。この危険な連携は国内に留まらず、悪名高い中国系マフィアとも癒着し、三位一体の巨大犯罪組織が形成されつつある実態が明らかになってきました。本稿では、裏社会の新たな構図と、それに対する警察の最新の取り組みについて深く掘り下げます。
トクリュウと暴力団:新たな融合の背景
「トクリュウ」とは、特定の組織形態を持たず、インターネットなどを通じて一時的にメンバーを募り、犯罪行為を繰り返すグループの総称です。その最大の特徴は、匿名性と高い流動性、そして自由度の高さにあります。しかし、ここ数年で、彼らが厳格な規律と「代紋」への拘泥を持つ暴力団組織と密接に結びつき始めていることが顕著になってきました。この一見アンマッチな結合は、双方にとっての利害が一致した結果と見られています。
現在、トクリュウとヤクザの融合を示す事件が相次いで報道されています。例えば、大阪・ミナミでは、客引きを脅迫したとして、トクリュウの男らと共謀した特定抗争指定暴力団山口組直系一心会の会長が逮捕されました。また、愛知や大阪で活動していたトクリュウ「ブラックアウト」の「ケツモチ」(後援)をしていたとして、山口組直系弘道会傘下の組事務所が家宅捜索されるなど、暴力団がトクリュウの背後に存在し、あるいは直接関与しているケースが浮上しています。これらの事例は、若い不良がヤクザの道へは進まずとも、トクリュウとして暴力団と密接な関係を保っている現状を示唆しています。
警察庁「トクリュウファースト」戦略とその波紋
このような裏社会の変化に対し、警察当局は重大な危機感を抱いています。2024年12月、当時の警察庁長官は全国の警察幹部会議において、トクリュウを「日本の治安対策上の最大の脅威の一つであり、国民の体感治安に大きく影響を及ぼす要因」と位置づけました。そして、「組織犯罪対策の軸足を、従来の暴力団からトクリュウにシフトすべき転換期にある」と明言し、その資金源の解体と中枢メンバーの検挙を強く指示しました。これは、組織犯罪捜査の重点を「トクリュウファースト」へと移行するという画期的な路線変更を意味します。
警察はこれを受け、ヤクザではない不良グループの逮捕発表においても積極的に「トクリュウ」という呼称を用い、摘発成果のアピールに躍起になっています。
しかし、組織犯罪対策部(組対部)が「トクリュウ」と認定する基準の曖昧さや、現場へのやみくもな指示は、捜査現場で困惑の声を生み出しています。殺人事件などの捜査に当たる刑事部捜査員からは、具体的な定義や捜査手法の確立が追いついていない現状に対し、冷ややかな視線も向けられています。
暴力団事務所を家宅捜索する捜査員。トクリュウとの連携捜査を強化する警察の取り組み
巨大犯罪グループへの対応と今後の展望
トクリュウ、暴力団、そして海外マフィアという三者が融合した巨大な犯罪グループの出現は、日本の治安にとって新たなかつ複雑な脅威となっています。警察が「トクリュウファースト」戦略を打ち出し、組織犯罪対策の重心を移動させることは、現代の犯罪情勢に即した重要な一歩です。しかし、その実態把握の難しさや、捜査現場での戸惑いなど、課題は山積しています。
今後、警察はトクリュウの実態をより詳細に解明し、組織的な連携を断ち切るための新たな捜査手法や法整備を急ぐ必要があります。また、海外マフィアとの癒着に対処するためには、国際的な捜査協力の強化も不可欠となるでしょう。国民の体感治安を守るため、警察の粘り強い努力と、社会全体の協力が求められています。
参考文献
- 週プレNEWS (2025年8月16日). 闇バイトの「トクリュウ」と暴力団が融合!さらに中国系マフィアまで加わった”三位一体”の巨大犯罪グループの不穏な実態とは. Yahoo!ニュース.
https://news.yahoo.co.jp/articles/b8d414ed5177b3f35620b09ddd38bb5eb8a71b73