2025年8月15日と16日の2日間、北海道・石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージで開催された一大音楽イベント「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2025 in EZO」。このフェスティバルで、16日のステージに17年ぶりに登場した椎名林檎(46)のパフォーマンスが大きな注目を集めました。その様子は『めざましテレビ』や『ノンストップ!』(ともにフジテレビ系)といった人気情報番組でも紹介され、多くの視聴者が彼女の久々のステージに歓喜しました。しかし、カメラが捉えた一部観客の光景が、その後、SNSを中心に大きな波紋を呼ぶことになります。ステージ前方に集まったファンたちが、ある特定のデザインに酷似したミニフラッグを一丸となって振る姿が映し出されたのです。
椎名林檎のライブ中、旭日旗に酷似したミニフラッグを振る観客たちの様子。
旭日旗とは?その歴史と日本の見解
今回問題となったミニフラッグのデザインが酷似していると指摘された「旭日旗」は、その歴史的背景から複雑な意味合いを持つシンボルです。明治時代に旧日本陸軍旗として指定され、旧海軍も軍艦旗として採用しました。特に第二次世界大戦中には、日本の帝国主義および軍国主義の象徴的なモチーフとして用いられた経緯があります。
戦後、この旗は一時的に使用が控えられましたが、1954年の防衛庁・自衛隊の発足に伴い、陸上自衛隊の自衛隊旗、海上自衛隊の自衛艦旗として再び採用されました。日本政府は旭日旗について、「その意匠は日章旗同様、太陽をかたどっており、大漁旗、出産・節句の祝い旗等、日本国内で現在までも広く使用されているものであり、特定の政治的・差別的主張である等の指摘は当たらないものと考えております」との見解を示しています。これは、2021年に当時の官房長官であった自民党・加藤勝信財務大臣(69)が記者会見で述べたものです。しかし、その歴史的背景から「軍国主義を彷彿とさせる」として、未だにネガティブなイメージを持つ人々が国内外に少なくありません。
椎名林檎のステージで何が起きたのか
椎名林檎は「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2025 in EZO」のステージに和装で登場し、代表曲『丸ノ内サディスティック』などを熱唱しました。その熱狂的なパフォーマンス中、前方エリアの観客たちが、問題の旭日旗に酷似したミニフラッグを一斉に振る様子がカメラに捉えられ、その映像がテレビ放送を通じて拡散されました。
この光景は瞬く間にX(旧Twitter)などのSNSで拡散され、拒否反応を示す声が相次ぎました。
「ウワ、椎名林檎ってフェスでも旭日旗振らせてんのか…気持ち悪い」
「私はまさに中2の時椎名林檎にハマって、ファッション軍国主義も普通にカッコいいと思ってしまっていたが、今はもう『痛い』『ダサい』『危険』としか思えない」
「またかよ椎名林檎……擬似ヘルプマークグッズの件といい、この擬似旭日旗といい…この表象が『カッコいい』と思ってる感性が無理すぎる」
といった批判的なコメントが多く投稿され、椎名林檎の芸術表現やファン行動に対する疑問が噴出しました。
過去のグッズと専門家の見解
こうした声が上がる背景には、椎名林檎がこれまでにも旭日旗をモチーフとしたグッズを販売していた経緯があるためと考えられます。しかし、ある音楽ライターは、ファンたちが振っていたミニフラッグが「最近のグッズではない」と指摘し、事態の解釈に新たな視点を提供しました。
音楽ライターの説明によると、椎名林檎のグッズで初めて旭日旗をモチーフにした商品が販売されたのは2008年。そして、今回問題視された旭日旗を模したミニフラッグが販売されたのは、ソロコンサート「林檎博’14」が最初だったといいます。その後、「林檎博’18」でも同様のミニフラッグが販売されましたが、昨年の「林檎博’24」では、ミニフラッグのデザインは旭日旗オマージュではなく、折鶴や果物のリンゴをモチーフにしたものに変わっており、旭日旗のデザインは避けられている印象があるとのことです。
椎名林檎の「林檎博’18」で販売された、旭日旗のデザインに酷似したミニフラッグ。
今回の「RISING SUN」に合わせて販売されたグッズにも、旭日旗をモチーフとした商品は一切含まれていなかったとこのライターは強調します。また、椎名林檎本人もステージ上ではリンゴがモチーフになったミニフラッグを手に持っており、ファンを意図的に「扇動した」という事実はないはずだと述べています。
今回のフェスでカメラに捉えられた旭日旗デザインのミニフラッグは、おそらく2014年か2018年の「林檎博」で販売されたものである可能性が高いとのことです。前方エリアにいたのは、長年の熱心なファンが多く、過去のグッズを愛用し持参していたため、「旭日旗を振らせている」と誤解されてしまったのだろうと推測されています。実際、X上では「この旭日旗、たしか2008年か2018年のツアーグッズなので、今新しく何かやらかした訳ではないということは申し添えておきたい」「椎名林檎の旭日旗って結構前からな気がするけどな」といった、椎名林檎を擁護する声も複数見られました。
椎名林檎と表現、そして過去の論争
椎名林檎は、自身の独特な世界観の中で、国家イベントや政治をモチーフに取り入れることでも知られています。その表現の自由と、社会的なシンボルの持つ意味合いの間で、過去にもいくつかの論争が起きています。記憶に新しいのは、2022年に彼女が販売したグッズが、障害者のための「ヘルプマーク」や医療機関の「赤十字マーク」に酷似しているとして炎上した件です。
今回の旭日旗デザインのミニフラッグを巡る騒動も、アーティストの表現と受け手の解釈、そして社会的なシンボルの持つ多義性という、複雑なテーマを改めて浮き彫りにしました。過去のグッズが意図せず波紋を広げた今回の事態は、椎名林檎本人にとっても「想定外」の出来事だったのかもしれません。芸術と社会、そして歴史的背景が絡み合う中で、表現のあり方について深く考えさせられる出来事となりました。