北海道・知床の世界遺産地域にそびえる羅臼岳で発生したヒグマによる人身事故について、地元自治体である羅臼町と斜里町が設立した知床財団は2025年8月21日、調査速報を公表しました。この速報によると、8月14日に下山中にヒグマに襲われ死亡した26歳の男性被害者は、登山道を「走って移動していた可能性が高い」と指摘されています。正午ごろという異例の速い下山ペースだったことから、一部インターネット上ではトレイルランニングの可能性も指摘されていましたが、財団の調査は具体的な状況を明らかにしています。
知床羅臼岳の山道とヒグマ注意喚起の標識(イメージ)
事故の経緯と知床財団の調査報告
知床財団公式サイトの「2025年羅臼岳登山道におけるヒグマ人身事故に関する調査速報」によると、被害男性は8月14日の登山中、同行の友人から離れて先行していました。その後、現場近くに到達した友人は男性が助けを求める声を聞きつけます。ヒグマは男性を林の中に引きずり込んでおり、友人が応戦したものの助け出すことは叶いませんでした。午前11時10分ごろ、友人が警察に通報し、事故が発覚しました。
翌15日の13時過ぎ、捜索救助隊は被害者を咥えながら斜面を移動する親グマと、そのそばにいる2頭の子グマを近くの林内で発見。その場で3頭のヒグマが駆除されました。知床財団などは20日に現場検証を行い、男性が襲われた場所を特定。そこはヒグマが食用とするアリが多く生息し、頻繁にヒグマが出没する場所だったとされています。
警戒されていた親グマの特性
今回駆除された親グマは、過去にも人目につく場所で毎年のように目撃されており、2025年だけでも30件以上の情報が寄せられていました。人を避けず、逃げようとしない行動特性から、財団職員による追い払い対応が繰り返し行われていたといいます。
特に、事故発生の数日前にも具体的な警戒情報が発令されていました。8月10日には、この親グマである可能性が高いヒグマが人を気にせず登山道を登ってきたとして、登山者へ要注意の警戒が呼びかけられています。さらに、同12日には、親グマと酷似したヒグマが約5分間にわたり登山者への接近を繰り返す事案が発生。これを受けて、翌13日には登山道のパトロールが実施されるなど、厳重な警戒態勢が敷かれていました。しかし、その翌日の14日に今回の悲劇が発生してしまったのです。
「かなり早いペースで下山」していた可能性
男性がヒグマに襲われた場所について、調査速報では、カーブしており見通しの悪い狭い登山道であったと説明しています。その上で、男性が「走って移動していた可能性が高い」との見方を示しました。また、男性と友人の登山全体の行程を類推した結果、「かなり早いペースで下山していたと推定される」とも付け加えています。ヒグマとの遭遇時に、急な動きはヒグマを刺激する要因となることが指摘されており、今回の速報は、知床の登山における安全管理の重要性を改めて浮き彫りにしています。
まとめ
知床・羅臼岳で発生したヒグマによる人身事故の調査速報は、被害男性が登山道を「走って移動していた可能性が高い」という重要な見解を示しました。過去に人を避けず、追い払い対応が繰り返されていた親グマの行動特性、そして見通しの悪い狭い登山道という現場の状況が重なり、悲劇的な結果を招いたと考えられます。世界遺産知床の豊かな自然と共存するため、登山者は常にヒグマとの遭遇リスクを念頭に置き、定められたルールと注意喚起を厳守し、冷静で慎重な行動を心がけることが不可欠です。
参考文献:
- 知床財団公式サイト. 「2025年羅臼岳登山道におけるヒグマ人身事故に関する調査速報」. (2025年8月21日発表)
- Yahoo!ニュース. 「知床・羅臼岳下山中のヒグマ襲撃事故で死亡男性、登山道を走っていた可能性高いと判明 知床財団が調査速報発表」. (J-CASTニュース 2025年8月22日掲載)