安倍氏銃撃1年 「別に真犯人」論理飛躍、根強い陰謀論

安倍氏銃撃1年 「別に真犯人」論理飛躍、根強い陰謀論

[ad_1] 街頭演説に臨む安倍元首相と、背後に立つ山上徹也容疑者(右から2人目)=昨年7月8日、奈良市 発生からまもなく1年となる安倍晋三元首相銃撃事件を巡り、インターネット上などでは今も「陰謀論」が飛び交う。殺人罪などで起訴された山上徹也被告(42)のほかに「真犯人がいる」というものだ。これに対し捜査関係者は真っ向から否定する。にもかかわらず発信者は「捜査機関が不都合な真実を隠蔽(いんぺい)している」とかたくなに主張し続ける。歴史的な大事件や事故のたびに繰り返されてきた陰謀論。情報への見極めが必要だ。 【写真】銃撃された安倍晋三元首相が最後に握っていたマイク。持ち手の部分などに傷がついていた ■〝消えた〟銃弾… 《警察の説明にものすごく違和感を覚えた》《ほかに銃撃者がいるのでは》 ネット上では、発信者が事件当時の映像を交えながら、こうした持論を展開する動画が散見される。 根拠の一つに挙げられるのが、安倍氏が受けた銃弾の位置だ。奈良県警の発表では、山上被告が発砲した銃弾のうちの2発が安倍氏の左腕部と右前頸部(けいぶ)に当たったとしている。 山上被告は安倍氏が街頭演説中に背後約7メートルから1発目、さらに接近して背後約5メートルから2発目を発射したとされる。事件当時の映像を確認する限り、安倍氏は左側に少し振り返っただけで、山上被告がいた位置から首の右側面には到底当てられない-というのが、言い分だ。 だが、県警の示す「右前頸部」は、首の右側ではなく、首の中央線よりわずかに右寄りの位置を指すという。捜査幹部は「少し振り返れば当たる場所だ」と話す。捜査では画像解析で弾が当たる瞬間も確認しており、山上被告の立ち位置と当たった場所には矛盾がないとしている。 さらに弾丸の行方を巡っても疑惑を生んだ。安倍氏の体内には2発の銃弾が入ったとみられるが、県警の司法解剖で実際に体内から見つかったのは1発のみ。「警察は不都合な事実を隠蔽しているのでは」との憶測も飛び交った。 これについては、銃撃直後の救命活動が影響したというのが現場の見立てだ。当時、胸を切り開いての心臓マッサージや大量の輸血に加え、とめどない出血を吸収し続ける必要があり、捜査関係者は「救命活動中に体内の銃弾が失われた可能性は高い」と指摘する。 山上被告は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に傾倒した母親が多額の献金をしたため生活が困窮し、教団とつながりがあるとみた安倍氏を銃撃したとされる。こうした動機には論理の飛躍もみられ、山上被告が別の「共謀者」から指示を受けたとの見方も出ている。だが県警は、スマートフォンの連絡先や検索履歴を消去分も含め全て捜査した上で、単独犯だと結論付けたという。 1963年に起きたケネディ元米大統領暗殺事件では、単独犯として逮捕された容疑者が2日後に警察署内で銃撃され死亡。背後関係が不透明で、今もCIA(米中央情報局)やマフィアの関与を信じる米国民が少なくない。国内では、日航ジャンボ機墜落事故(昭和60年)を巡る「米軍撃墜説」や東日本大震災(平成23年)の「人工地震説」など、荒唐無稽な陰謀論もささやかれ続ける。 安倍氏の事件でも今年5月、週刊文春が自衛官の関与疑惑を報道した。山上被告の弁護団は取材に「全く関係ない」と断言するが、今後も陰謀論がつきまとう可能性はある。捜査幹部は「(単独犯の)確たる証拠はあるが、すべてを発表すれば公判に影響し、不利になる可能性もある。歯がゆい思いだ」と漏らす。 ■陰謀論加速させるエコーチェンバー現象 インターネット上の限られたコミュニティーで自分と似た価値観を持つ人とだけ交流することで、特定の思想や情報のみを真実と信じ込んでしまう-。米の憲法学者、キャス・サンスティーン氏らが、こうしたコミュニケーションのあり方を狭い部屋で同じ音が反響し続ける状況にたとえた「エコーチェンバー現象」は、世間に流布される陰謀論を加速させ、危険な事態を招くこともある。 実際、ネット上の情報から米大統領選の投票結果に疑念を持った人々が米連邦議会議事堂を襲撃したり、日本でも「新型コロナウイルスワクチンの接種は犯罪行為だ」と信じるグループが接種会場に侵入したりするなど、すでに国内外で問題が表面化している。 さまざまな分野の記事や主張が報道される新聞やテレビといった媒体と比べ、ネットは自分の関心に従った方向性で選別された情報が供給される傾向が強い。 サンスティーン氏は著書「インターネットは民主主義の敵か」(2003年)で、無作為に選んだ60の政治系ウェブサイトのリンク先を調査したところ、反対意見へのリンクが2割未満だった一方、同じ意見へのリンクは約6割に上ったことを明らかにした。リンク先をたどれば同じような意見を繰り返し閲覧することになり、意見が過激化する可能性もあるとする。 …