飼い主は死刑囚、雑種犬「ポパイ」の数奇な運命 逮捕前には「幸せになってね」とメッセージ

飼い主は死刑囚、雑種犬「ポパイ」の数奇な運命 逮捕前には「幸せになってね」とメッセージ

[ad_1] 保見死刑囚の自宅とポパイ(2022年、筆者撮影) その雑種犬はもともと、周南市の山間部に暮らしていた。飼い主は関東からUターンしてきた一人暮らしの当時60代の男。豊かな自然の中での、穏やかな生活だった。ところが突然、飼い主と雑種犬は離れ離れになる。飼い主が事件を起こしたためだった。 【画像】保見死刑囚の自宅とポパイ 「つけびして 煙喜ぶ 田舎者」 あまりにも有名になったこの川柳は、雑種犬「ポパイ」の飼い主だった保見光成死刑囚によるものだ。 保見死刑囚は2013年7月、集落の2軒の家に火を放ち、5人を殺害し、2019年に死刑が確定。今年(2023年)7月初め、その保見死刑囚の弁護団が再審を求め、最高裁に特別抗告していることがわかった。再審請求を21年に棄却した山口地裁の決定を不服として広島高裁に即時抗告していたが、昨年11月に、同高裁はこれを棄却する決定を下していた。 そんな飼い主との再会を心待ちにしているのだろうか。多発性の腫瘍を患っているポパイ(推定年齢16歳)は現在、動物病院で献身的な治療を受けている。(ライター・高橋ユキ) ●事件後は動物病院で保護 自宅の窓ガラスには、「つけびして 煙喜ぶ 田舎者」と、直筆の川柳が貼られていた。不穏な川柳は殺人放火事件の“犯行予告”ではないかと思われていたが、実際のところは無関係だった。 死刑囚は事件当時、2匹の犬を飼っていた。それが「ポパイ」と、ゴールデンレトリバーの「オリーブ」だ。事件を起こして山へ逃げる前に、死刑囚はポパイとオリーブに腹いっぱい食事を与え、山に放った。ところが山には行かず、家の前にじっといたのがオリーブだった。 オリーブは死刑囚の逮捕の瞬間に突然死んだ、と事件当時は報じられていたが、実態は少し異なる。 「警察は犬を『遺留品』として扱っていたため、オリーブを周南警察署に置いていたらしいんです。 その後、市役所に移送されたのですが、それは殺処分コースなんですね。ですのでボランティア団体さんが引き取り、別の環境の良い団体さんのところに運んでいるところで死んでしまったんです。逮捕直後に死亡に気づいたということであって、その瞬間にまさに死んだ、ということではないんです」 2017年当時、取材にこう語ったのが、周南市の「シラナガ動物病院」院長の白永伸行さんだ。同院では、事件直後からポパイを引き取り面倒を見続けている。 オリーブが亡くなり、死刑囚が逮捕された後に、山から降りて来たのがポパイだった。すぐに発見され、周南警察署に保護された。また同じことが起こらないよう、徹底的にケアする覚悟を決め、ポパイを引き取ったのだという。 ●「彼だけに溺愛されていた存在だから、すごい臆病」 「病気も治りました。彼は犬をかわいがっていたみたいですけど、犬の健康のための努力はそんなにしていなかった。保護した時点でフィラリアという感染症にかかっており、狂犬病の予防接種もしていなかったんです。だからもう、預かっているんだけどまあ、うちの犬と思うしかないよね」(同) 院長が無償で病気を治し、予防接種も定期的におこない、ポパイをとりまく環境は格段に良くなったように思えたが「あっちに比べたら良い環境じゃないですよ、やっぱり野山を走り回れますからね。そう考えるとちょっと切ないですけどね」と、白永院長は語っていた。 事件から10年になろうとする2022年10月、ふたたび対面したポパイは、変わらず人見知りだった。死刑囚は生まれ故郷へのUターン後、地域に溶け込もうとした時期もあったが、年老いた両親が亡くなって以降は周囲との関わりを断っていた。そのため、事件が起きるまで犬たちが関わりあう人間は、死刑囚ひとりだけだった。 …