
札幌市豊平区の札幌ドーム=本社機「希望」から2018年9月12日午前10時半、本社機「希望」から梅村直承撮影
巨大施設の行く末は、本当に大丈夫なのだろうか。プロ野球・北海道日本ハムファイターズが今季限りで移転する札幌ドーム(札幌市豊平区)。新型コロナウイルス流行前の2019年度は、プロ野球が利用用途の47%を占める「稼ぎ頭」だった。日本ハム移転まで1年を切り、新たな活用策を取材すると、「ビッグボス」こと新庄剛志監督の采配で盛り上がるチームとは裏腹に、心配が募るばかりの状況だった。【高山純二】
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◇公共施設ならではの足かせ
札幌ドームは01年に開業した。02年に日韓共催のサッカー・ワールドカップ(W杯)の試合が行われ、04年シーズンから日本ハムが本拠地として活用する。札幌市の第三セクター「株式会社 札幌ドーム」が運営し、19年度の売上高は39億7200万円。だが、コロナ禍の20年度は過去最低の18億6800万円にとどまり、営業赤字が5億100万円に上った。
ドーム社は過去、大型ビジョンの更新などの大規模な設備投資をした14、18年度しか赤字になっておらず、大型設備投資をした年度を除けば20年度が初の赤字決算だった。施設自体の建設費は442億円で、市債残高は20年度末で96億円。32年度まで返済が続く見通しとなっている。
一方、日本ハムは16年、公共施設であるドームならではの使用上の制約などを理由に、本拠地移転を検討中と表明。球場の管理・運営権を持っていないことから、独自のファンサービスなどを自由に展開できず、不満を募らせていたとされる。このため、市の残留要請を断り、18年に北広島市への本拠地移転を正式に決定。当時の球団幹部は「札幌ドームとは立ち位置が違い、パートナーたり得なかった」と漏らした。日本ハムは現在、北広島市に新球場・エスコンフィールド北海道を建設中で、23年3月の開業を予定する。
◇日ハム移転の穴埋めに苦悩する市
今季の本拠地開幕戦となった3月29日の埼玉西武ライオンズ戦。入場チケットは完売し、約2万人のファンがドームで、新庄監督の「空飛ぶバイク」を使った入場パフォーマンスを見守った。この稼ぎ頭の日本ハムの移転を受け、ドームの経営が不安視されている。
秋元克広市長は18年の移転正式決定を受けた臨時会見で「マイナス分の収支を埋めていくため、新たな活用を考えていく」と述べ、19年の市長選でも市税の投入を避けるため、具体的な活用策をまとめる考えを示した。
市スポーツ部企画事業課によると、市とドームは4本柱の収支改善策を計画。1本目はサッカーJ1・北海道コンサドーレ札幌が主催する全20試合をドームで開催すること。ただし、これまでもすでに16試合をドームで実施しており、増加分はわずか4試合にとどまる。
2本目は「新コンサートモード(仮称)」だ。約4万人を収容できるドームは、コンサート会場として広く、相応の集客のできるアーティストが限られているため、コンサートの開催が年間平均で10回程度にとどまっていた。新コンサートモードはドームの内部に幕を張って、あえて座席数を削減。2万人規模のコンサートが開催できるようにする。市は22年度予算に10億円を計上し、計画を進める。深井貴広課長は「2万人規模のコンサート会場は市内になく、新たな需要の掘り起こしができると判断した。コロナ下で不透明な部分もあるが、年間で10~12回を期待したい」と説明する。
残る柱の2本は展示会誘致と自主イベント開催。19年の実績で8日間開催の展示会は26日間、同9日間開催の自主イベントは13日間の開催を目標に掲げる。4本柱の収支改善策を目標通りに誘致できれば、サッカー4日間▽コンサート10~12日間▽展示会18日間▽自主イベント4日間――によって最大で38日間を埋めることができる。ただし、それでも年間で約70試合あった日本ハムの主催試合の半分程度にとどまるのが実情だ。
深井課長は「日本ハム移転の穴を埋めるべく、四つの柱のほかにも、あらゆる可能性を考えている」と話す。仮に日ハム移転後に赤字になった場合については「協議が必要だと思うが、市長は『市民負担を増やさない』としており、税の投入はないと考えている」と述べた。
市は当初、セ・リーグの試合の誘致も検討した。だが、道内のプロ野球開催の権限は日ハムが持っている。このため、「全く未定」(企画事業課)という状況で、日本ハムとの交渉も進んでいないという。
◇「指定管理者再応募を」と識者
日本ハム移転後のドームの収支改善策は何があるのか。北海道大公共政策大学院の石井吉春客員教授(地域政策)は「(市の4本柱は)方向性として正しいと思うが、新型コロナ感染拡大を受けて、国際会議などのあり方もガラッと変わった。大人数が集まる会議は減り、イベントもひたすら大勢を集めようとすることが少なくなったと考えたほうがよい。改善策を実施しても、数億円超の赤字が残るのでないか」とみる。
市は大規模展示施設「アクセスサッポロ」(白石区)の後継として、ドームと同じ豊平区内の旧道立産業共進会場(月寒グリーンドーム)跡地に新展示場を建設することを公表しており、26年度中の開業を目指す。石井氏は「ドームを多用途施設にすればするほど、新設の施設はもとより既存施設とも競合することになる。市はドームの運営だけを考えるのでなく、市全体の状況を考えた骨太の方針を示さないといけない」と言う。
また、「そもそも施設の用途が展示会やコンサートになると、球場運営が中心だったドーム社よりも、展示会運営のノウハウのある別会社の方が赤字幅を削減できる可能性もある。日本ハム移転で利用の状況が変わる以上、そのままドーム社が指定管理者でいること自体を問い直す必要もある」と語る。一方、「赤字になる可能性が高く、仮に指定管理者を再応募しても、新たな応募者はいないかもしれないが、日ハム移転の責任問題も曖昧のまま、ドーム社が運営し続けても、問題が明確にならない。赤字が出た場合、行政が責任を取らなければならない以上、どのように赤字幅を削減するのかなどについてオープンな議論が必要だ」として、22年度内の議論を求めた。