ウクライナ南部ヘルソン州で、自走砲でロシア側を攻撃するウクライナ軍部隊=2022年11月9日、ロイター
ロシアのショイグ国防相は9日、ロシアが併合を宣言したウクライナ南部ヘルソン州のドニエプル川西岸地域から撤退するようロシア軍部隊に命じた。州都ヘルソン市を含むこの地域はウクライナ側が奪還に向けて反転攻勢を強めており、撤退はプーチン露政権にとって大きな打撃となる。一方、ウクライナ側は自軍を市街戦に誘い込む「わな」の可能性もあるとみて警戒を解いていない。
インタファクス通信などによると、ロシア軍のスロビキン総司令官がヘルソン地域への物資供給が困難な状況に陥ったなどとして、ショイグ氏に川の東岸地域に防衛線を構築することを提案し、了承を得たという。スロビキン氏は西岸地域の住民約11万5000人をロシアが実効支配するウクライナ南部クリミアへ避難させることも決定した。
ヘルソン市は、ロシアが一方的に併合したウクライナ東・南部4州の州都のうち、2月のウクライナ侵攻後に制圧した唯一の都市。ロシアにとっては重要な「戦果」とされていた。
これに対しウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は9日、ロイター通信に「ロシア軍撤退について語るのはまだ早い。部隊は市内に残っている」と述べ、退却したと判断するのは時期尚早との見方を示した。ウクライナ側が警戒するのは、「これで進軍が容易になった」と思い込み、ヘルソン市に入ったところを集中攻撃される事態だ。今回の撤退方針はあくまで見せかけの「偽装工作」の可能性もあり、ウクライナ軍は今後、慎重に進軍の是非を検討するとみられる。
一方、タス通信は9日、ヘルソン州の親ロシア派勢力幹部だったストレモウソフ氏が交通事故で死亡したと報じた。事故の詳細は不明で、現地での混乱に拍車をかけている。
同州は、2014年にロシアが一方的に併合した南部クリミア半島とウクライナをつなぐ交通の要衝。【大前仁、ベルリン念佛明奈】