防衛省、海外から試験艇を調達して水上無人艇を早期導入への道を模索

USV開発の遅れからくる現実的な判断

防衛省は2024年度の概算要求に7兆7,385億円を計上する見込みです。この中には、次期戦闘機開発費やイージス・システム搭載艦、対潜戦能力の向上した新型護衛艦や新型補給艦の建造費、地上や海上の目標を攻撃するための精密誘導弾開発費、12式地対艦誘導弾・能力向上型の艦艇搭載費、極超音速誘導弾の量産費、南西諸島周辺への輸送力強化のため自衛隊海上輸送群の創設費、これに必要な機動舟艇や回転翌機の調達費、陸海空を一元的に指揮する統合指令部の新設費、新型護衛艦装備開発に携わる技官や事務員の増員費などが含まれています。

イメージ

出典:U.S. Marine Corps photo by Sgt. Kealii De Los Santos

まだ正式に発表されていない概算要求の内容は不明ですが、私にとって興味深いのは「水上無人艇の早期導入に向けて各国から試験艇の調達が盛り込まれている」という点です。ここでいう水上無人艇は小型のUSVを指しており(シーハンターやレンジャークラスの比較的大型なUSVはまだ実用化されていないと思われます)、海外から試験艇を調達することで、早期導入を図ることが目指されています。

たとえば、米海兵隊が取得を検討している米メタルシャーク製の長距離無人水上艇「LRUSV」にはイスラエル製の徘徊型弾薬「Hero-120」が統合されており、これを作戦海域で使用することで、特定の空域を長時間徘徊しながら味方の戦場認識力を拡張し、発見した目標に対して自爆攻撃を行うことも可能です。

イメージ

出典:Meteksan Defense 無人水上艇「ULAQ」

Meteksan Defenseが実用化した無人水上艇「ULAQ」も、トルコ海軍が対水上戦タイプと対潜戦タイプの導入を決定しており(他にも対艦ミサイルタイプ、ISR&EWタイプ、対機雷戦タイプもあります)、捜索救難タイプのULAQもLIMA2023で公開され、注目を集めています。徘徊型弾薬を搭載するULAQの登場も時間の問題でしょう。

USV開発に積極的な韓国も2021年に「海劍3」を公開し、旧型の海劍1や海劍2よりも堪航性や戦闘能力を大幅に向上させたモデルです。AI制御の自律運行技術やRWS、誘導ロケット弾、水中無人システム(UUV)などの機能や機器を採用しており、風浪階級4(波高2.5m未満)の海況でも警戒任務を実行できる安定性を備えています。

イメージ

出典:U.S. Army photo by Specialist Natianna Strachen Saildrone Explorer

残念ながら、日本はUSV開発でもUAVやUCAVと同様に出遅れているため、「海外からの輸入で早期導入を図る」というのは非常に現実的な判断です。しかし、上記のように小型で長期運用に耐えるISR向けのUSVはたくさん存在しています。たとえば、米海軍が採用したSaildrone Explorerは最長1年間の海上運用が可能で、風浪階級4以上の海況でも運用できます。自衛隊がどのUSVを試験導入するのか、とても楽しみです。

関連情報:

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army Photo by NAVCENT Public Affairs 米軍とイスラエル軍のUSVを使用した演習