現役世代の支持を得て国民民主が躍進した一方、給付金など高齢者優遇の公約をかかげた自公は議席数を激減させた。特に公明党は代表、副代表が落選し、危機的な状況に陥っている。過半数を割った与党は、現役世代に向けた政策を掲げる国民か維新の協力を得なくてはいけない状況だ。シルバー民主主義ともいわれる状況の中で、ついに現役世代の声が反映されるチャンスが来た――。
キャスティングボートを握った“第三極”
激動の衆議院選挙が終わって一夜明けた。各政党の議席数が明らかになり、新しい政治の構図が見えてきた。
「手取りを増やす」として現役世代の立場にたった国民民主が公示前の議席数を4倍にする躍進をみせた一方、与党は過半数233議席を割る大惨敗を喫した。
とくに「高齢者の買収では!?」と批判が集まった住民税非課税世帯に10万円給付、総額1.5兆円のバラマキを掲げた公明党は、石井啓一代表・佐藤茂樹副代表・伊佐進一元厚労副大臣いずれもが落選。
議席は改選前32議席から24議席へと大幅に減少した。
開票当日のテレビ報道におけるインタビュアーたちは、玉木雄一郎・国民民主代表に対し「首班指名で野田佳彦と書くのか」と、立憲民主・国民民主連立での政権交代を促したが、玉木代表は「ありません」と否定。
「我々は政策本位でやってきたので、自公が良い政策をするのであれば当然、協力をしていくが、おかしなことにはおかしいと言い続けたい」と強調した。
一方、日本維新の会の馬場代表も27日の記者会見で「連立政権入りは今のところ全く考えていない」と述べた。
もしも国民民主や維新が自民・公明や、立憲を中心とした野党とも連立しないのであれば、自公は「与党過半数割れでの政権運営」ということになる。
そうなれば国民民主や維新の政策議論での影響力は最大となり、国民に対する政策議論の透明性は向上する。
仕組みを解説しよう。
これまで最多議席政党が単独過半数をとれなかった場合、「安定した国会運営」のために他党と連立政権を組み議案を成立させることができる過半数を確保してきた。その見返りとして、他党に大臣職を分配することが慣例となっている。
もしも国民民主と維新がいずれの党とも手を組まない場合、自民・公明が最多議席となり石破首相の続投が決まるが、議会は過半数割れとなるため与党単独での法案成立ができなくなる。
法案を成立させるためには国民民主か維新どちらかの協力を得ることが不可欠となり、与党はその意向を無視できなくなる。こうして「少数政党がキャスティングボートを握った」状態が生まれる。
またこれまでのように与党内の政調会議という公開規定のない“密室”で政策を決めることはできなくなり、国会中継や議事録作成など国民の見える場で政策形成の過程をチェックすることができるようになる。
国民民主は今回の衆院選で、「手取りを増やす。」をスローガンに、社会保険料の軽減や所得税の減税、基礎控除の増額、年少扶養控除の復活など、現役世代に向けた政策を公約に掲げていた。
維新も「現役世代に不利な制度を徹底的に見直す」とし、医療費原則3割化など高齢者医療制度の適正化や、社会保険料の負担軽減などを訴えていた。
両党がこのような法案を通すことを条件に政権に協力をする可能性が高く、両党の政策が実現する目が出てきた。
これまでにない国会運営で混乱は起こるだろうが、シルバー民主主義の中で不可能かと思われてきた現役世代の声が反映される、最大のチャンスだと言える。