病院食を取り巻く環境は、食材料費やエネルギー価格の高騰により、かつてないほど厳しい状況にあります。2024年6月に入院時食事療養費が1食あたり30円値上げされましたが、依然として物価高騰の波に追いつかず、多くの病院給食部門が赤字運営を強いられています。米価格の高騰も追い打ちをかける中、病院食の質を維持しながら、この難局を乗り越えるためにはどのような方策があるのでしょうか。
病院食の現状:深刻化するコスト増と運営難
全国国立大学病院栄養部門会議委員長の利光久美子氏は、「2024年度の診療報酬改定における30円の値上げは物価高騰分をカバーするには至らず、さらなる引き上げが必要」と訴えています。
全国国立大学病院栄養部門会議委員長 利光久美子氏
副委員長の野本尚子氏も、消費者物価指数の推移を示しながら、原材料価格や円安の影響によるコスト増が病院給食に深刻な打撃を与えていると指摘。特定機能病院では、1食30円の値上げ後も患者1人あたり1日平均869円の病院負担が生じ、500床の病院では年間1億6000万円もの負担となる例を挙げ、食事療養費の更なる見直しと調整費の設定の必要性を訴えました。
現場の声:献立調整の努力と限界
病院給食の現場では、栄養価を満たしつつ限られた予算内で食事を提供するために、調理師や栄養士が日々献立の調整に奔走しています。日本メディカル給食協会理事の中村仁彦氏(富士産業代表取締役)は、フレッシュフルーツを缶詰に変更したり、品数を減らすなど、物価高騰の影響が献立に及んでいる現状を説明。同協会は、食事療養費の適正水準への引き上げを目指し、厚生労働省への要望書提出を計画しています。
介護食品の活用:課題解決への新たなアプローチ
物価高騰に加え、食形態変更に伴うとろみ調整食品や嚥下調整食などの費用も病院食の負担を増大させています。日本メディカルニュートリション協議会会長の原浩祐氏(ニュートリー執行役員)は、安全で栄養バランスのとれた嚥下調整食品の活用は、品質管理や人員コストの削減につながるだけでなく、医療費抑制や誤嚥性肺炎の予防にも効果的だと提言しました。
未来への展望:官民一体で目指す持続可能な病院食
塩崎彰久厚生労働大臣政務官は、今回の報酬改定で食品に関する報酬点数を引き上げたことを強調し、管理栄養士、栄養士、調理師、そして関係業界との連携を強化し、日本の医療・介護の更なる発展に尽力する姿勢を示しました。
病院食は、患者さんの健康を支える重要な役割を担っています。物価高騰という逆風の中、栄養のプロフェッショナルたちの献身的な努力と、官民一体となった取り組みが、未来の病院食の持続可能性を切り開く鍵となるでしょう。